夜勤嫌いからの訪問看護

インタビュー先の事業所とご担当者様

伊原 香子さん 管理者

訪問看護ステーションたいとう

東京都台東区

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ワークライフバランスを理由にはじめた訪問看護

一和多

本日は都内で複数の訪問看護ステーションを展開し、長らく地域医療の中核を担ってきた、東京都保健生活協同組合の『訪問看護ステーションたいとう』、管理者の伊原さんにお話を伺います。

 

よろしくお願い致します!

伊原さん

よろしくお願いします。

 

あの、私で良いインタビューになればいいのですが、あまり自信がなく……(汗)。

一和多

大丈夫ですよ(笑)。

 

伊原さんも、平成16年から訪問看護をされている、大ベテランのひとりなのですから!

伊原さん

たしかに、訪問看護の経歴は長いのですが、私はそもそも訪問看護をスタートしたキッカケも、「在宅がやりたくて!!!」といったことではないんですよね。

 

「仕事と家庭とのワークライフバランスのため」といった理由で始めている人間なので、良い内容のお話ができるか…。

一和多

「子育てとの両立」を理由に訪問看護を選択される方は多いですよね。

 

こちらのステーションもそうだとは伺っていますが、絶賛子育て中のママさん訪問看護師も多いですし。

 

「管理者をはじめ、スタッフは子育てに理解のあるメンバーです!」

といったことも、大きなアピールポイントになりますので、ご安心ください(笑)。

伊原さん

ありがとうございます…!

 

そうですね、私自身も、子どもが3歳の時から訪問看護の管理者をしておりますので、仕事と育児との両立については色々と相談に乗れると思います。

 

子育てに悩まれている方にも、是非うちのステーションを検討して頂きたいですね。

多職種の密な連携で地域を支える福祉の街「台東区」

一和多

早速ですが、ここのエリアでの訪問看護を知るうえで避けては通れないのが、『山谷(さんや)』エリアかと思います。

 

漫画『あしたのジョー』の舞台にもなったこのエリアは、「貧困」「ドヤ街」といった暗いイメージもあるのですが、

その反面、他の地域に先駆けて社会福祉の充実にせまられ、様々な福祉施設が建てられた「福祉の街」としての一面もあるのかなと。

伊原さん

そうですね。

 

おっしゃる通り、低所得者の多いエリアであることは、隠しようがない事実です。

 

経済的なことや家庭的なことなど、本当に様々な事情を抱えた方が住まわれているエリアだと思っています。

伊原さん

ただ、どのような事情を持たれた方がご利用者でも、なにか医療的な取り組みに差をつけることはないので、

 

「ご本人が望む生活を、可能な限り叶えていく」

 

といったスタンスでのぞんでいますね。

一和多

複雑な事情を抱えたご利用者が相手ですと、それ相応の大変さもあるかとは思いますが、この台東区エリア自体が、福祉の面においてフォロー体制手厚は感じられますか? 

伊原さん

はい。

1つの訪問看護ステーションでは、抱えられないご利用者が多いので、地域の公的機関や医療機関、NPO団体、他所の訪問看護ステーション同士でも、連携体制は非常に良好だと思います。

 

「ご利用者ひとりひとりを、地域で支えていく」

 

といった意味では、健全に地域のライフラインが機能しているエリアだと、私は自負していますね。

一和多

率直な質問になってしまうのですが、環境の整っていないご利用者は多いですか?

 

例えば、ゴミ屋敷のような……。

伊原さん

正直にお答えすると、他のエリアと比べて多いのかな?と思います。

 

私自身も、ここのエリアで訪問看護をはじめて、カルチャーショックを受けることもありました。

 

ただ、最初からそのような状況を得意とする方は滅多にいないと思うので、あまり深く考えすぎず、徐々に徐々に慣れていって頂くしかないのかな…と

一和多

なるほど。

先ほどの話にも繋がるのですが、そのようなご利用者についても、訪問看護師ひとりが抱えることはなく、他の組織と連携して環境整備をしていくんですよね??

伊原さん

そうですそうです!

 

みんなで一緒になって生活支援をしていきますし、そこの資源は豊富なエリアですので。

 

私たちの介入で、生活環境が整備されていき、だんだんと暮らしぶりが変化していく様子を実感できることは、とてもやり甲斐がありますよ。

一和多

お話を伺っていて、こちらのエリアでの訪問看護は特に、「連携」が非常に重要なキーワードなのかな?と感じました。

 

こちらのステーションですと、同じ建物内に診療所があって、ケアマネ事業所があって、リハビリのセラピストがいて、ヘルパーがいて…と、

他職種との連携にはとても恵まれた環境ですよね??

伊原さん

はい、うちで働く大きなメリットはそこですね。

 

あと、うちの法人が運営する別の診療所も近くにあるのですが、そこでは歯科が併設していて、歯科往診もしているんです。

 

同法人内だけでも、これだけ資源がそろっているのは、働くうえで本当に有り難いですね。

一和多

長く地域に根ざして、これだけ多くのことをされている法人ですと、新規のご利用者獲得のための営業って必要ないんじゃないですか?

伊原さん

うちは、営業はないですね~。

 

外のケアマネさんからのご依頼もあるのですが、うちの法人の往診の一環、介護の一環として、訪問看護の依頼を頂くことも多いです。

一和多

未経験者の中には、

 

「訪問看護って営業をしないといけないんでしょ?」

 

といったことを心配されている方もいるので、そこの不安がない点も、こちらのアピールポイントかもしれないですね!

一和多

ちなみに、こちらの法人の先生たちも、在宅に熱心な方が多いですか??

伊原さん

やりやすい先生が多いですよ。

色々な相談に乗ってもらえますし、往診もすぐに対応してもらえます。

 

私がこちらのステーションで、小さな子どもの子育てをしながら訪問看護の管理者ができたのも、そういったサポートが充実していたから、といった点は大きかったですね。

「夜勤をしたくない」「子育てとの両立のため」といった理由ではじめた訪問看護

一和多

ここからは、伊原さんのご経歴についてお伺いをしたいと思います。

 

ご出身はどちらなのですか?

伊原さん

東京都足立区です。

看護学校は山梨県の専門学校を卒業しました。

 

その後は、この辺のエリアでずっと暮らしている感じですね。

一和多

看護学校を卒業されてから、病院・病棟はどのようなところに?

伊原さん

看護学校卒業後、東京に戻り、当法人の病院へ入職しました。

病棟は、脳神経内科がメインの内科系病棟でした。

 

病棟で4年間勤務した後、5年目から在宅に移りました。

一和多

今でこそ、3~4年の病棟経験の後に、在宅へ進まれる方は増えていますが、当時ですと珍しかったのではないですか?

伊原さん

はい、かなり少なかったと思いますね。

一和多

なぜ訪問看護を??

伊原さん

あの~~~、、、私、夜勤が嫌だったんです(苦笑)。

 

それで病棟の異動が入るタイミングで、

「夜勤のない働き方はできないかな?」

と考えていたところ、たまたま更衣室で隣のロッカーだった看護師さんから訪問看護の話を聞いて。

 

それで法人の訪問看護に異動願をだしてみたら、それが通ったという感じでした。

一和多

「夜勤をしたくない」も、立派な職業選択の1つだと思うので、良いと思いますよ(笑)。

 

その後は、ずっと同じ訪問看護ステーションで勤務を?

伊原さん

いえ、その後に結婚・転居・出産があって、その訪問看護ステーションは退職しました。

 

出産後は、自宅近くの病院で外来をやっていたのですが、

子育てと仕事との両立ができる職場で検討をしていくと、やはり病院よりも訪問看護の方が働きやすいな、

と感じて、また訪問看護に戻りました。

 

それからは、ずっと訪問看護を続けていますね。

一和多

もともと、在宅への関心が高かったわけではない、といったことを仰っておりましたが、実際に訪問看護師として長く働かれてみて、ここは訪問看護の魅力だなと感じる点はありますか??

伊原さん

まずは、利用者さんとの距離の近さですかね。

 

ひとりの方にしっかりと時間をかけて関わることができるので、それは大きな魅力かと。

伊原さん

あとは、自分が提供した看護が、良くも悪くも自分に跳ね返ってくるところも好きですね。

 

私の関わりで、良くなっていくケースもたくさんありましたし、

一方で「明日から来るな!」と言われてしまったケースもあります。

 

そのすべてが、自分の経験や成長になっていったように感じています。

一和多

「もう来るな!」といったケースでは、どのような失敗がありましたか??

伊原さん

訪問看護の始めたての方にありがちなことなのですが、「してあげたい病」ですね(苦笑)。

 

「あれもしたい、これもしたい」

「あれも必要、これも必要」

と、一方的な介入をしすぎてしまい、先方を怒らせてしまったり、拒絶されてしまったり…。

 

たくさんの経験を積んで、距離感の取り方はつかめていきましたが、最初は失敗もありましたね。

一和多

こちらのエリアですと、特に距離感の取り方が難しい方は多そうですね…。

伊原さん

そうですねぇ……。

 

やはり、色々な事情を抱えている方がいるので、他人への警戒心が強い方もいますし、自由な生活を望んで管理されることを嫌う方もいます。

 

ただ、せっせとお宅に通っていると、ある日を境に「帰れ」と言われなくなるんですよね。

 

そこからは、お部屋にあがれるようになって、会話がひとつふたつと増えていって、困りごとの相談をして頂けるようになっていきました。

伊原さん

気難しい方と関わっていくことの大変さはもちろんありますが、

信頼関係を少しずつ勝ち取っていって、段々と笑顔をみせてくれるようになっていくのは、すごくやり甲斐もありますし、何より自分としても嬉しいな、と感じる点です。

10年間看護を続けた失語症のご利用者

一和多

伊原さんがこれまで見てこられたご利用者の中で、印象深かった方のエピソードを教えて頂けますか?

伊原さん

10年近く関わった、70代・独居の失語症のご利用者ですかね。

 

もともと路上生活をされていて、その後はアパートで暮らされていたのですが、ある日から突然、失語症になってしまったんですね。

 

脳梗塞の後遺症での失語症だったということは、後になってからわかったのですが…。

伊原さん

路上生活をされていたとは想像もつかないくらい、お家の整理整頓をしっかりとされている方で、生活そのものは問題なかったのですが、

失語症になったことで、生活のバランスが崩れていってしまい、私はそこから、訪問看護とケアマネで関わり始めました。

一和多

失語症の方ですと、コミュニケーションはどのように取られていたのですか??

伊原さん

最初はジェスチャーでしたね。

 

ただ、訪問を重ねる間に顔も覚えて頂いて、大体のことは意思疎通できるようになっていきました。

一和多

なるほど…。

そこから10年近く訪問をされたのですね??

伊原さん

そうですね。

 

高齢になるにしたがって、ひとり暮らしも難しくなっていったので、地域の生活保護課と相談をして施設に入る手続きを進めていきました。

 

ただ、言葉が話せないこともあって、施設での暮らしがどうしても合わなかったんですね。

 

施設に入っても出てきてしまうし、体調が悪くなって救急搬送をされても、勝手に帰ってしまうような方でした。

伊原さん

結果的には、自立支援をされている団体の施設がこの方を引き取ってくれることになりました。

 

そこは、路上生活や様々な事情を抱えた方ばかりが暮らされている施設ということもあって、そこの方々が大変よく面倒をみてくれました。

 

私もそこの施設に訪問看護で通うようになり、半年ほどで、施設の住人みんなに看取られながらお亡くなりになりました。

 

関わっていた期間が長かったということもあるのですが、私にとってはとても印象深い方でしたね。

一和多

言葉が交わせない中で、これはご本人から感謝されたな、喜ばれているな、と感じるようなことはありましたか?

伊原さん

そうですね。

そういったときは、お金を持ってくる人でした。

一和多

お金???

伊原さん

はい。

何かをしてあげたときの御礼として、お金を渡そうとするんですよ。

 

もちろん、生活保護の方なので、そんなにたくさんのお金は持たれていないのですが、それでも何かあると、突然お金を渡そうとするんですよね。

一和多

お金を頂いちゃうのは問題ですが、一方で頑なにそれを拒否するのもよくないですし…。

 

どうしていたんですか??

伊原さん

一度受け取ってから、次の訪問のときに、こっそりと家に置いておきましたね(笑)。

一和多

なるほど(笑)。

伊原さん

本当に苦労をした方ではあったのですが、この地域の特性を凝縮したような方でしたね。

 

とても穏やかな方で……。

 

今でも思い出すと、泣いちゃいそうになります。

訪問看護で求められるのは、高い志でも豊富な知識でもなく…

一和多

最後に、「これから訪問看護をはじめよう」と思われている方に向けて、何かメッセージを頂けますか?

伊原さん

まず、再三になるのですが、

「高い志はなくても大丈夫です」

ってことは、お伝えしたいですね。

 

私自身がそうでしたので(笑)。

伊原さん

ただ、はじめる動機はどのようなものでも良いのですが、

やはりご利用者のご自宅・ご家庭に入っていく仕事なので、

一対一の深いお付き合いに、やり甲斐や喜びを感じられることは大切かな、と思います。

 

また、そのように感じた自分の気持ちを、チームのみんなで共有していけることも。

一和多

そういった意味で、訪問看護も人によって、向き・不向きはありますよね。

 

あと、訪問看護を始めるにあたって、臨床経験や知識、スキルの面ではいかがですか?

伊原さん

もちろん知識やスキルが豊富な方が良いですよ。

 

ただ、それが不足しているなら、

不足しているなりに勉強していけばよいことなので、そんなに心配しなくても大丈夫です。

 

私自身も、経験のないことがたくさんある中で、一つずつ積み上げていきましたし。

一和多

訪問看護に対して、変なハードルの高さを感じている方に届けたいメッセージですね。

伊原さん

いえいえ、あまり高尚なことが言えなくて申し訳ないです(苦笑)。

 

私のような理由でも結構ですので、

まずは気軽に訪問看護の門戸を叩いてもらえると嬉しいですね。

一和多

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

台東区「三ノ輪」駅から少し歩いた場所に位置する、診療所の3階に事業所を構える『訪問看護ステーションたいとう』

 

駅前の綺麗に舗装された町並みとは打って変わって、様々な事情を抱えた低所得者の方が多いエリアということは、ここの地域医療にたずさわるにあたって、切っても切り離せない大切なポイントです。

 

そこを重圧に感じる気持ちも当然なのですが、裏を返せば、そういった方々の生活を支えてきた地域福祉の充実したエリアとも言えますし、これから日本が直面していく、地域医療の最先端を学べる場所とも言えるのではないでしょうか。

 

まぁ、こういった書き方をすると「意識の高い方」向けのエリアとも受け取られかねないのですが、ここで長年訪問看護をされてきた伊原さんのように、「夜勤が苦手」「子育てのため」「家から近いので」等々、理由は何でも結構ですので、どこかの条件に惹かれた方は、まずは気軽に訪問看護の現場を体験してみてください!

取材・文章:一和多義隆

事業所情報

事業所名 訪問看護ステーションたいとう
運営会社 東京保健生活協同組合
所在地 東京都台東区竜泉3-1-2 竜泉事業所3F
最寄り駅 東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅(徒歩8分)
在籍人数 看護師(常勤3名・非常勤3名)
従業員の平均年齢 40代半ば ※40~50代のスタッフが在籍
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