終末期ケア、最も後悔の残る感情は?

インタビュー先の事業所とご担当者様

大江 寛さん 管理者・看護師

サンケア・イーライフ訪問看護ステーション

東京都大田区周辺

成功者の街「田園調布」で暮らす方は、こだわりが強め?

一和多

東京都大田区に位置する、日本国民なら誰もが一度は耳にしたことがあるであろう高級住宅エリア『田園調布』。

 

本日は、田園調布エリアで暮らす方々の地域医療を支える、『サンケア・イーライフ訪問看護ステーション』の管理者、大江さんにお話を伺います。

 

よろしくお願い致します!

大江さん

よろしくお願いします!

一和多

早速なのですが、田園調布エリアといえば…

やはり芸能人や資産家の方が多いのでしょうか?

大江さん

いわゆる「田園調布」のイメージはそんな感じですよね(笑)。

 

たしかに、資産を持っていて、インテリジェンスも高い、「成功者」という印象の方は目にします。

自分の思い描く人生を実現して生きてきた方…といいますか。

一和多

すごい方々が多そうですよね!

 

その反面、色々とこだわりも強いのかなと想像してしまいます…(汗)。

大江さん

それは……、あるかもしれません(苦笑)。

 

たとえば、訪問看護をスタートするにあたってはじめに契約をおこないますよね?

その際に、

「まずは契約書の内容を確認したい」

「ここの説明は言葉足らずではないか?」

「料金表の説明が分かりづらい」

というようなご質問をいただくこともあります。

一和多

う~ん、かなり具体的な部分ということですね。

 

ただ、料金ひとつとっても、複雑な保険制度を詳らかにしてご利用者に説明することは、かなり大変ですよね。

大江さん

そうなんですよね…。

契約だけで2時間近くかかったこともあります(苦笑)。

一和多

(苦笑)。

大江さん

もちろん、地域には他にも様々な方が暮らしています。生活保護の方への訪問もありますし、他所のエリアと大きく変わらないと思いますね。

離職者0!? 訪問看護未経験の新人が辞めないチーム運営とは

一和多

こちらの訪問看護ステーションは『株式会社 早稲田エルダリーヘルス事業団』という会社が経営母体ですよね。

 

インパクトのある社名だなと思ったのですが、どういう組織なのでしょうか?

大江さん

母体は、福岡市内を中心に診療、臨床薬理、介護福祉を三本柱に運営をしている医療法人です。

 

うちはそこから枝分かれしたグループ企業の1つで、もともとはデイサービスをメインとする介護事業所でした。

一和多

社名に『早稲田』とありますが、早稲田大学となにか関係が??

大江さん

はい。

 

早稲田大学エルダリー・ヘルス研究所の協力のもと

一日型の通常のデイサービスに加えて、エビデンス(科学的根拠)を重視した運動プログラムをおこなう半日型のデイサービスも運営をしています。

 

また、介護予防促進のため、早稲田大学の研究所をはじめ様々な企業とアライアンス連携を図って

『AYUMI EYE(アユミアイ)』(※)という歩行能力解析デバイスの開発、普及にも取り組んでいます。

 

※AYUMI EYE|https://ayumieye.com/

一和多

医療・介護領域で様々な取り組みをされている組織なのですね!

 

訪問看護のスタッフがデイサービスで業務をすることもあるのでしょうか?

大江さん

以前はヘルプで入ることもありましたが、訪問看護が忙しくなるにつれて少なくなりましたね。

 

ただ、訪問看護とデイをセットで使われているご利用者もいますので、デイの途中で体調が悪くなった際に、訪問看護のスタッフが様子を見に行くことはあります。

一和多

ご利用者にとっても、見慣れた看護師さんが駆けつけてくれるのは安心ですね!

一和多

訪問看護のスタッフさんの顔ぶれを眺めていて、比較的若手の方が多い印象を持ちました。

大江さん

そうですね、平均年齢で30代前半くらいでしょうか。

 

みんな訪問看護未経験からスタートしたメンバーばかりです。

一和多

それは意図的に「未経験者を採用しよう」と決めていたとか??

大江さん

そんなことは全くないです!

在宅経験者の採用が難しかっただけで…(苦笑)。

一和多

なるほど、訪問看護経験者はまだまだ少ないですよね…!

 

未経験者の方への教育・フォローはどのような体制をとっていますか?

大江さん

まず、同行訪問は原則3ヶ月はおこないます。

 

その方のスキルや経験に応じて短縮することもありますが、十分な時間をとってOJTをおこなうようにしていますね。

大江さん

また、初任者が1人で不安を抱える状況を作らないよう

・申し送りや情報共有の時間をとる

・いつでも管理者に電話相談できる

といったバックアップ体制を心がけています。

一和多

社内で相談できる環境をきちんと用意されているということですね!

 

社外研修なども活用されていますか?

大江さん

はい、看護協会が実施している外部研修はスタッフ全員が受けられるように調整しています。

最近は新型コロナの影響で、研修開催自体が流動的になっていますが…(汗)。

大江さん

ちなみに1つ誇りたいことがあるんです!!(笑)

一和多

な、なんでしょう!?!?

大江さん

私が管理者に就任してから、(ご家庭でのやむを得ない事情を除いて)トラブル的な退職をされた方がひとりもいないんです!

 

…今のところは、ですが(笑)。

一和多

わー! それは素晴らしいですね!

 

スタッフが定着するために心がけていることなど、なにか秘訣があるのでしょうか?

大江さん

私自身、このステーションの前にも訪問看護ステーションで働いていたのですが、

そのときから

「訪問看護って、業務内容はこんなに楽しいのに、なんで離職率が高いのだろう?」

と疑問に感じていました。

大江さん

もちろん様々な要因はあると思うのですが、その1つが「ワークライフバランス」の点にあると考えました。

 

たとえば

・(そもそも)スタッフ数が足りていない

・完全プライマリーで一人で抱え込んでしまいやすい

といった運営体制ですと、スタッフがお休みが取りづらい場面が、どうしても出てきてしまいます。

大江さん

そういった状況をできるかぎり作らないよう

・ご利用者はチームみんなで看る

・チームみんなで情報共有をおこなう

そして、

・(メンバー同士でフォローしあって)取りたいときにしっかり休みを取る!

といった風土作りはこだわりたいと考えました。

 

理想としては、毎年スタッフの誰かが海外旅行にいけるような運営をしていきたいですね(笑)。

体育教師から看護師への転機をつくったのは、父からの意外なお誘い

一和多

ここからは大江さんのご経歴についてお伺いをさせてください!

 

そもそも、なぜ看護師になられたのでしょうか?

大江さん

看護師になった理由ですか…。

我ながらはっきりとはわからないのですが(苦笑)。

 

私はもともと体育大学の出身で、体育教員を目指していました。

一和多

えぇ!?

ご専門は何だったのでしょうか???

大江さん

ハンマー投げです。

 

メダリストの室伏選手と記録会で一緒させてもらったこともあったんです。

当然、室伏さんは1番、自分はビリから2番目!(苦笑)。

一和多

(苦笑)。

大江さん

ただ、スポーツが原因で両膝を怪我しまして。

教員免許は取得したのですがこの先、自分自身が体育・スポーツの指導者になったとしても、身体が満足に動かない状態で指導をすることに違和感を持ったんです。

 

そこから、体育教員以外の道も模索するようになりました。

一和多

そんな過去が…。

 

看護にはどのように繋がっていったのですか?

大江さん

きっかけは父ですね。

父は臨床心理士として働きながら、看護学校で臨床心理学の講師もしていました。

 

ある日、「うち(看護学校)の学園祭でカレーをつくるから、手伝いに来ないか?」と声をかけられました。

私は当時「看護師は女性がなるもの」といった固定観念を持っていたので、はじめて足を運んだ看護学校で、男性の看護学生を見かけてとても新鮮な気持ちでした!

大江さん

その後私自身が膝の手術を受けた際にお世話になった病院で看護助手として働かせて頂くことになり…、

 

働きながら看護学校に通って看護師資格を取得したという経緯です。

一和多

色々なご縁で繋がっていった感じだったのですね。

 

臨床はどちらを経験されましたか?

大江さん

最初は、3次救急のICUで5年ほど働きました。

急性期の職場もやり甲斐はあったのですが、機械とにらめっこしながら治療を最優先する日々を過ごしているうちに、業務内容に疑問を感じるようになりました。

 

「その人らしい生き方の手伝いをしたいな」と漠然と考えていましたね。

 

そんな時に、アメリカでの短期研修のお話を頂きました。

大江さん

シアトルにある施設で、日本でいうところの特別養護老人ホームと有料老人ホームがミックスしたような施設でした。

そこで「福祉」という看護とは少し異なる領域に触れ、まだまだ知らない世界があるなと。

 

当時は自分が何をやりたいのか定まっていなかったので「とにかく色々な経験をしてみよう!」と思いました。

 

日本に帰国したあと、様々な職場で働くなかで訪問看護も経験しました。

一和多

訪問看護はどのような印象をもたれましたか?

大江さん

とてもやりがいのある素敵な仕事だと思いましたね。

 

一方で、いくつかの訪問看護ステーションで働いてみて、「すごくバランスが難しい仕事だな」とも思いました。

 

組織人として、理念を持って働いた方が良いのはたしかなのですが、

訪問看護はご利用者の生活に深く入り込んでいく仕事なので、理念や理想ばかりが先行すると実際の仕事が成立しなくなる場面もありました…。

大江さん

私がこの職場で「ワークライフバランス」や「スタッフの働きやすさ」を強く意識するようになったのは、

難しいバランスのなかで働く訪問看護師の大変さを身をもって経験した影響が大きいですね。

父親との確執、そして最期の時間は

一和多

大江さんが訪問看護の現場で出会った、印象的だったケースを教えてください。

大江さん

訪問看護師として転換点になった、忘れられないケースがあります。

 

70代前半のがん末期の男性で、

腎臓から全身に転移したがん、糖尿病、脳梗塞もあったので嚥下障害もありました

 

口癖は「俺の好きにさせろよ」というような方でした。 

大江さん

奥さんが一緒に暮らしていましたが、

 

奥さんは「本人の好きなようにさせてください。言っても聞かないので」と言って畑仕事に出てしまう。

そのうえ、携帯電話をお持ちでなかったので、外出してしまうと連絡手段がありませんでした。

大江さん

ある日、ご自宅に訪問したところ、ご主人の呼吸が停止していました。

 

いつもどおり奥さんは不在。

連絡もとれない。

 

 

緊急連絡先としてお嬢さんの電話番号を伺っていましたが、数十年疎遠になっていて関係性が良好とは言えない状態でした。

 

なんとかお嬢さんに連絡がつながり、状況を説明すると

「分かりました。そのまま進めてください」

「自分は(顔を見なくて)結構です」

とのお返事でした。

一和多

これまでの家族関係で本当に色々とあったのでしょうね…。

大江さん

私もそう思いました…。

 

でも「お嬢さんは、父親との別れも不十分なまま残りの人生を過ごしていく形になって良いのかな?」と思いまして。

 

「ご家族に来て頂かないと、私が困ってしまうので」とお話して、なかば強引にお嬢さんに自宅へ来て頂くことにしました。

大江さん

ご実家へ到着されたお嬢さんは、最初は心を閉ざしているようでした。

 

ところが少しすると、「着替えを一緒に手伝ってもいいですか?」とおっしゃって。

一和多

お嬢さんから動かれたんですね…。

大江さん

はい。

 

冷たくなったお父さんのお着替えを一緒にしていると

「昔、父がよく着ていた服です」

と、ポツリ、ポツリ昔話をはじめられました。

 

お電話では

「私が父のために悲しむわけがない」

と口にされていたお嬢さんが、涙ぐみながらお父さまの最期の姿を見つめていました。

大江さん

それまでも胸を打たれるお看取りはたくさんありましたし、

今回のケースも、もっと良い進め方はいくらでもあったと思います。

 

ただ、「あの瞬間の自分の直感を信じて良かった」「これが私のやりたかった看護だ」とこのときに気持ちが弾けた。

 

私自身が訪問看護にはまった瞬間でした。

大江さん

その現場を経験してから、グリーフケアや家族ケアについて改めて学び直しました。

 

そのなかで

「後悔として最も残ってしまう感情は、〈許してもらえなかった経験〉と〈許せなかった心〉である」

という言葉に出会いました。

 

あのとき、お嬢さんに来て頂いて、本当に良かったと思いましたね。

「ベスト」ではなく「ベター」を

一和多

訪問看護をする中で、ご家族の関係性へのアプローチが難しい場面は多いと思います。

 

ご家族ごとに積み重ねてきた過去だったり、感情だったり…、

複雑に絡み合った背景があるなかで、第三者である医療者が介入するときに戸惑うことがあるかなと…。

大江さん

仰るとおりですね。

 

医療者としてベストを突き詰めていくと、それはご本人やご家族にとっての「押し付け」になっていってしまいます。

 

訪問看護においては特に、「ベスト」ではなく「ベター」に焦点をあてて支援していくのが良いのかなと感じています。

一和多

「ベター」といっても、ケースバイケースでその範囲が広いですよね。

それはそれで判断に迷いませんか?

大江さん

そうですね。

教科書上だけでは、とても判断できない。

 

そういうときは、看護師がみんなで持ち帰って、話し合い、相談し合うようにしています。

 

看護師だって人間なので、もちろん悩むことはあります。

そのときに、みんなで話し合える、という環境をとても大切にしていますね。

大江さん

それと、「わかった気になってしまう」ことも怖いです。

ある程度、経験を積んでくると、良くも悪くも個人のなかでケーススタディができて、型にはめたくなるんです。

 

訪問看護師としてたくさんの経験を積んでも、同じ利用者さんは一人としていません。

一人ひとり違う利用者さんから、常に教えて頂くという気持ちを持つことは、訪問看護師にとって非常に大切な心構えだと思います。

一和多

本日は貴重なお話、ありがとうございました。

取材を終えて

一和多

『田園調布』にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 一歩駅から足を踏み出しただけでも、23区内とは思えない独特な雰囲気を感じる、とてもハイソサエティなエリア。ただ、近年では多摩川を渡った川崎エリア(武蔵小杉 等)の開発が進み、子育て世代も暮らしやすい住居が近隣に広がっていったという側面もあります。

 

サンケア・イーライフ訪問看護ステーションは、管理者の大江さんを中心として、看護・リハビリの若手メンバーがいきいきと働いている姿が印象的でした。ステーションで掲げる合言葉、『視点は鋭く、当たりはソフトに』。これはご利用者やそのご家族に対して、というだけでなく、チームメンバー同士にも発揮されており、それがスタッフの定着率の高さやチームワークの秘訣になっているように感じました。

日本有数の高級住宅エリアでの地域医療に、真正面から取り組めるオススメのチームです!

事業所情報

事業所名 サンケア・イーライフ訪問看護ステーション
運営会社 株式会社早稲田エルダリーヘルス事業団
所在地 東京都大田区田園調布一丁目14-5 武井ビル1階
最寄り駅 東急東横線・東急目黒線線「多摩川」駅 徒歩7分
在籍人数 看護師:8名(看護師:常勤7名・非常勤1名),理学療法士:4名(常勤:4名),作業療法士:3名(常勤:3名),事務スタッフ:2名 ※サテライト含む
従業員の平均年齢 30代半ば ※20~40代のスタッフが在籍

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