ICUからみた訪問看護の世界
意外(?)にも裕福な方の多い小平エリアでみかける元◯◯のご利用者
よろしくお願いします!
『小平』は、場所的に清瀬市や西東京市とも重なるエリアだと思います。
2ステーションを見ていて、それぞれの土地柄といいますか、エリアによって特徴があるな、と感じることはありますか?
ありますよ~!
清瀬は、高齢化率が高く、また生活保護の方も多い印象です。
一方、小平は、移住してきた若い世帯や、比較的裕福なご家庭も多いイメージで、なかには医療保険が現役並の3割負担のお家もあります。
私自身、「(自己負担額が)現役並の方をはじめてみた!」と驚きました(笑)。
そうなんですね!?
そんな裕福な方が多いエリア!というイメージは特段持っていなかったです。
会社の元役員の方ですとか…、自衛隊が近いので元自衛官の方とか。
自衛隊!
元自衛官の方からお話を伺うというのも色々と興味深いですね…!
子育てを疎かにさせない! 運営方針は子育て中のある実体験から
エリアについてお話を続けさせてください。
小平市は、近隣エリアと比べても訪問看護ステーションが多いという印象がありますがいかがですか?
そうなんです!
市の広さが違うので単純比較はできないですが、清瀬市が8事業所なのに対して小平市はステーションが22事業所あります。
そんなに!
はい。
しかも、小平には色々なジャンルのステーションが集まっています。
小児専門や精神専門、あとは病院付きだったり、リハビリが強かったり…。
色々な特色あるステーションが集まったうえで22事業所もあるので、なかなかの激戦区だと思いますよ!
それは、地域の皆さんにとってはすごく良いことですね!
経営する側にとっては…、プレッシャーにもなりそうです…(汗)。
そんな競争の激しいエリアで、きずな・小平サテライトではどのような運営を目指していますか?
まずは小児に強いステーションを目指していきたいと思っています!
偶然ですが、リハビリで非常に優秀な人材が揃っていて、かつ、小児のリハビリができるスタッフがいるんですよ~!
それは心強い!
ただ、小児というと、小児領域の経験がないと苦手意識をもたれやすい領域かな、とも思うのですが…
そのあたりのフォロー体制はどうされていますか?
実は、私の義姉が都内で、とある小児で有名なステーションの管理者をしているんです!
私も含めて、そこで小児の研修を受けて小児看護について色々教えてもらっています。
教育ステーションのあちら!
すごいご縁をお持ちですね(笑)。
小平は、小児訪問看護のニーズはいかがですか?
ニーズは高いですよ~!
ただ、受けられるステーションがまだまだ少ないのが実情です。
なるほど。
小児を受けられるステーションが少ないのは日本全体の課題ですね…(汗)。
ちなみに、小児以外にも、末期の方、神経難病の方、精神疾患なども受け入れていらっしゃいますか?
なんでも幅広くお伺いしていますよ!
「ゆりかごから墓場まで」じゃないけど、(在宅で)なんでもできる人を目指す方には、いい環境だと思います。
色々な方を対象にしていますので、ご依頼を受けるにあたって「どのような介入をするか、誰がフォローするか、最終的にどうしたいか」という点は特に丁寧に検討しています。
また、先程も話に出た、力のあるリハビリのメンバーもいますので、小児でも難病でも、リハと看護を一緒にお受けするようにしていますよ。
こちらのスタッフさんは貞弘さんをはじめてとして、子育て経験をもつ方が多いですね。
仕事と家庭との両立は、皆さんどのようにされているのでしょうか?
子育て中スタッフは多いですね!
そもそも、会社の方針として、「子育てを疎かにしないでほしい」と考えているんです。
スタッフのなかには小学校と中学校で2つ同時にPTAの役員をしている人もいます。
「今年は当たったね~」と(苦笑)。
それはすごい!
PTAを2つ掛け持ちするのは、仕事をしていなくても大変そうです(苦笑)。
「子育てを大切にする」ことを会社の文化にしているのは、なにかきっかけなどがあったのでしょうか。
私自身が3人子育てをしながら働いたのですが、やっぱり大変で(笑)。
そこがベースになっているのかもしれません。
以前働いていたステーションで、私の産休中にスタッフのご家族に不幸があり、私もすぐに仕事復帰しなければならない、という状況になったことがあったのですが、 、
子どもを保育園に預けて、お昼休みは授乳に行って、すぐ仕事に戻って…、という生活でした(汗)。
それは…
誰のためのお昼休みかよくわからないですね…(汗)。
本当ですよね(笑)。
子どもに対しても、そのときは「ごめんね」という気持ちが強かったんです。
だからスタッフには子どもを犠牲にするような働き方はしてほしくないと思っています。
むしろ、今のスタッフの中には「子どもを保育園に預けて働きたいです!」と言ってくれる人もいるんですよ。
「子供自身は大丈夫?」
「もうちょっとゆっくりでいいんじゃない?」
と周囲が心配することもあるくらい(笑)。
たしかに、「子どもは大好きだけどずっと2人きりだと息が詰まってしまう」、「早く仕事復帰したい!」という話も聞きますね。
そうです、そうです!
私も、子どもと24時間ぴったり一緒にいるのが辛いタイプだったので、気持ちはよくわかります。
「週1でもいいから働かせてくれ!」と思っていましたから(苦笑)!
仕事が良い息抜きになるというケースですね。
はい。
そういうバランスのとり方もできる職場にしていきたいです。
バリバリのICUナースが訪問看護で働き始めたキッカケは一歳児健診!?
ここからは貞弘さんのご経歴を伺いたいと思います!
まずご出身はどちらですか?
このあたりが地元で、看護学校も地元で卒業しました。
根っからの清瀬っ子なんですね!
就職はどちらに?
看護学校が大学付属だったので、そのままそちらの病院です。
集中治療室に配属されて、そこで長く働きました。
手術室の真横のICUだったので、ひたすらオペ患が流れてくるようなところでした…(笑)。
なるほど…。
話し方がチャキチャキしていらっしゃるので、(急性期出身の看護師さんだろうな~)とは内心思っていました(笑)。
あはは!
バリバリの急性期出身です(笑)!
実は私、病棟で働いたことがないんです。
次は横浜の病院に勤めたのですが、そこもICUとCCUの混合病棟で、そのまま妊娠、出産しましたので。
病棟を経験されたことがない!
そんなこともあるんですね!
訪問看護へはどのタイミングでいらっしゃったのですか?
それが…、二人目の出産でお世話になった助産院へ、一歳児検診に連れて行ったときに「働かない?」って言われまして。
「いや、私助産師じゃないですし…」と言ったら、「違う違う。すぐそこにお友達の訪問看護ステーションがあるの」と。
そんな流れで助産院の近くにあった訪問看護ステーションを紹介されたんです(笑)。
これまた不思議なご縁で…(笑)!
そうなんです(笑)。
保育園に入れられるかな?
なんて心配もしながら、子育てに煮詰まっていた時期でもあったので、「週1なら」とお答えして、そこから訪問看護の道に入りました。
そのあとは流れるように、半年経たずに常勤になっていましたね(笑)。
(笑)。
夫婦お二人暮らし、精神疾患を持つがん末期のご利用者
貞弘さんが訪問看護で出会った、印象に残っている利用者さんのエピソードはありますか。
割と最近のお話なのですが、よいですか?
もちろんです。
もうすぐ還暦になる統合失調症の女性なのですが、
いつも通っている精神科のクリニックで、ある日強烈なにおいを発しているときがあったらしいんです。
におい、ですか…?
調子が悪くてお風呂に入れなくなっていた、とか?
そう考えるのが普通なんですが、どうも一か月前の受診の時も同じ匂いがしたぞ、という話になったそうなんです。
そのときよりも匂いが強くなっていたので、クリニックの看護師が全身状態をみてみたら、乳がんで胸が崩れていて…。
!!
ご自分では「おかしいな?」と気づかれなかった?
そうですね…。
旦那さんとお二人暮らしだったのですが、旦那さんも気づける方ではなかったんですね。
ご本人は「なんかおできができちゃった」という理解でいらして。
ご自分たちで乳がんの専門の先生を受診されたのですが、もうクリニックでは手に負えない状態だったので、大きな病院に紹介されて…、
そこからうちにご依頼がありました。
入院はされなかったのですね…。
はい。
初めての大きな病院に入院する、ということに戸惑われたんでしょうね。
「帰る帰る!」とかなり動転されたようで、いったんご自宅に戻っていただくしかなかったそうです。
そこから訪問看護が開始になった??
はい。
病院から、ひとまず洗浄してアズノールを塗布してほしい、とのことでお伺いしたのですが…。
ご自宅はかなり散らかっていて、乳がんも花が咲いてしまったようでベッドは血だらけでした。
壮絶ですね…。
はい…。
ご主人も状況を把握することは難しいようでした。
でもとにかく洗浄しないと日に日に悪くなることは目に見えていましたので、訪問しながら、統合失調症と末期の乳がんをあわせて診てもらえるところへの転院もサポートしました。
ようやく転院先を見つけられて、軟膏も匂いを抑えられるものを処方してもらって、状態は徐々に落ち着いていきました。
きずなさんの居宅介護支援事業所のケアマネージャーさんも一緒に動かれていたのですか?
はい。
チーム一丸となって、包括的にアプローチしていきました。
そのあと、3週間に1回の抗がん剤が打てるようになるまで漕ぎつけました。
ちょっと一息ついたな、と思える頃でしたね。
ある日、私がお伺いすると、いつもはドアを開けてくださる旦那さんが出ていらっしゃらなかったんです。
外出されていた、というわけではなく…?
それが……。
それまでも、奥さんを置いてぶらりと遠方に出かけられることがある方だったのですが、
そういうときは必ず、看護師に「この日はいないけど、何時までに帰ってきます」とおっしゃっていたんです。
なので、ご本人に、「お父さん今日どうしたの?」と伺ったら、
「2日ぐらい前から見てない!」「2階で寝てる」とおっしゃいまして。
2日前から、2階で……??
はい。
それまでは2階はプライベートなところだから見ないでと言われていたので、私は1階しか知りませんでした。
ただ、「これはさすがにおかしいな」と思って、
「本当に申し訳ないんだけど、ちょっとお父さんに会いに行っちゃ駄目かな?」とご本人に聞いて、「一緒に行こう」とおっしゃったので、一緒に階段をあがりました。
ドアを開けたそこには、冷たくなった旦那さんが横たわっていたんですね。
えっ…!?
なにがあったのでしょうか……?
司法解剖の結果、階段からの転落が原因だったそうです…。
病死ではなく事故死だったので、警察の介入もあって事後処理は色々と大変でした。
介護者がいなくなってしまい、ご本人はどうなったのですか?
実は、まだ幼いころに、その方のご両親に預けられたお子さんがいらっしゃったんですね。
奥さまの持病もあり、ご夫婦で育児をすることは難しかったようで…。
そのお子さんが色々と動いてくださって、転院先もようやく見つかって、今はホスピスで過ごされています。
精神疾患と身体疾患と、どちらもある方の受け入れ先を見つけるのは大変だったでしょうね。
本当そうなんです。
難しいケースも受け入れてくれるホスピスを、ケアマネが懸命に探しました。
旦那さんが階段から落ちてしまった2日間ほどは、ご本人への訪問もなかったんですね。
もし旦那さんにも支援の手があったら、なにか違ったかもしれないですね…。
はい。
ちょうど土日でもあって、その土曜日に旦那さんは出かけていらっしゃったんです。
帰ってきたあとの事故だったようですね。
ご自宅で過ごされる方は、24時間ずっと医療スタッフが看ているということはできませんから…、
もどかしいところですね…。
はい…。
もっと早くにこのご夫婦を地域が見つけられなかったのかな、という思いは沸きました。
ご近所との関わりとか、周囲との関わりとか、あとは時期的にもっと早く、ですとか…。
医療機関で目をかけられることがあったら…とか。
突発的な事故が重なったとはいえ、すごく難しいケースですね。
それはどうしようもなかったのでしょうね……。
急性期出身ナースが感じた、訪問看護の魅力と下地づくりのススメ
ICU出身の貞弘さんが、その真逆ともいえる在宅にきてみて、病院と在宅の違いという意味で感じたことはありますか?
病院はわざわざ「治してください」と来院した患者さんなので、治療の話は比較的スムーズです。
在宅は「私が手伝わせていただいてよろしいですか?」という思いで入らないとお家に入ることもできない!
というところが大きな違いでしょうか。
関係性をこちら側から作っていく必要があるわけですね。
はい。
追い返されることもよくあります(笑)。
実習の学生さんには、「仲良くならないと看護ができないよ」とよく話しています。
その方の考え方が自分とは違うかもしれない、「本当にいいの?」と思うこともあるかもしれないけど、その人はその人の想いがあって、その方のお家なんだから、と。
まずはその方に寄り添うところから始まる、ということですね。
そう。喧嘩するために家にいれる人はいないわけですよ(笑)。
たしかに利用者さんやその家族に対する教育が必要な場面もありますが、嫌われて拒否されたら関係性が終わってしまいます。
だからこそ、「小難しいことは取っ払って、まずは仲良くなろう」ということを意識しています。
医療的に厳しい管理が必要なICU出身の貞弘さんがおっしゃるというところが、また興味深いです。
ICU時代に、意識のないご本人へご家族が面会にいらっしゃるという場面がありました。
その方々に寄り添うことって難しいな、と常々感じていたんです。
その当時できなかったことを今の在宅でできているのかな? と、個人的には思っています。
なるほど。
キャリアとして、「ICUの経験で、ここは在宅で特に活きた!」という部分はありましたか?
う~~~ん。
ICUに限らずどんな病棟でも、しっかり基礎を勉強しておけば、その上には在宅で必要な知識や経験が積み重なっていくと思います。
私の手帳には今でも「勉強しなきゃいけない疾患」が3つぐらい書いてあって、そのぐらい在宅では新しく勉強することがどんどん出てきます。
それこそ難病の方は、ご自分の疾患や新しい治療法のことなど、本当によく勉強されていますし。
だから、どんな領域の経験でもいいので、しっかりと下地をつくっていくという意識で良いかな?
病院時代に、あえて意識的に見てもらいたいと思うのは、「患者さんが病院で過ごす」ということはどういうことなのか、ということですね。
そこから感じるなにかを持って在宅にきてもらいたいです。
本日はありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました!
取材を終えて
西武新宿線「花小金井」駅と「小平」駅のちょうど中間ほどの場所に事業所を構える『訪問看護ステーションきずな小平サテライト』。
西武池袋線の「清瀬」駅に本店を持ち、サテライト店の立ち上がりからはまだ年数も浅いこともあり、現在は在宅経験者を中心とした少人数での運営となっているのですが、訪問内容をみると終末期・難病・小児・精神etcと、「これぞ訪問看護!」と言えるような幅広い症例の受け入れをされております。 加えて、様々な症例を受け入れていくために、本店とも連携をしつつ、教育カリキュラムの整備や外部研修の利用にも力を入れられているそう。
ここまでの情報だと「忙しそう…」「家庭との両立が難しそう…」と二の足を踏んでしまいそうですが、管理者の貞弘さん自身も3人の子育てをしながら訪問看護師として働かれてきた方ですので、ワークライフバランスへの配慮についてもご安心ください! 訪問看護での様々な現場を経験してこられた管理者さんですので、まずは気軽にお話だけでも伺ってみてはいかがでしょう?
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | 訪問看護ステーションきずな 小平サテライト |
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運営会社 | 株式会社Schilf |
所在地 | 東京都小平市鈴木町2-246-1F |
最寄り駅 | 西武新宿線「花小金井」駅(徒歩16分) |
在籍人数 | 看護師4名、理学療法士2名、作業療法士1名 |
従業員の平均年齢 | 30代後半 ※30~40代スタッフが在籍 |
ステーション詳細 | » より詳細なステーション情報を見る |
本日は、東京都西部、清瀬市と小平市の隣接する2つのエリアで2事業所を展開する『訪問看護ステーションきずな』で、小平サテライトでの管理者をされている貞弘さんからお話を伺います。
よろしくお願いします!