訪問看護大好き夫婦の心地よいバランス感

インタビュー先の事業所とご担当者様

早間 宏美さん/坂本 大輔さん (管理者/代表取締役)

訪問看護ステーションわかば

東京都練馬区

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喧嘩しても“助け助けられ”が夫婦経営のコツ

一和多

本日は練馬区「石神井公園」にて夫婦で事業所を切り盛りする、

訪問看護ステーションわかばの管理者・早間宏美さんと、代表取締役・坂本大輔さんのお二人に、お話をお伺いいたします。

よろしくお願致します!

早間さん

よろしくお願いします。

坂本さん

よろしくお願いします。

一和多

お二人は元々、訪問看護ステーションをはじめ、介護サービスの事業をされている法人での同僚で、

そこからご一緒に独立をされて、現在のステーションの立ち上げをされたとお聞きしました。

 

単刀直入にお伺いをするのですが、夫婦での事業所運営って喧嘩とかはございませんか?(笑)

坂本さん

まぁ、喧嘩といっても、一方的にこの人が怒っているだけなので、私は機嫌が治るのをじっと待つだけなんですよね…(笑)。

一和多

(笑)。

例えば、どのようなことで揉めますか?

坂本さん

私の仕事は事務や裏方がメイン。

現場のやりたいようにやらせてあげたい気持ちはすごくあるんですけど、なかなか歯止めがきかなくなってしまう時もありますよね。

そういう部分ですかね。

私はまあ、そこのストッパー役になってるかなという気はします。

一和多

逆に、奥さまの方は、ご主人と一緒に事業所運営をされていて、メリットを感じる点はございますか?

早間さん

なんだかんだ、すごく助けられていますよ(笑)。

私も含め、看護師さんって、事務的なことや数字の管理が苦手な方って多いじゃないですか?

そういった、みんなが苦手なところを、全部請け負ってくれています。

早間さん

みんなが働きやすいように色々と工夫してやってくれていて、

「これが欲しいな」とか「こういう風になったら楽だな」

と言うと、知らない間にさささっと

「やっといたよ」ということが多いので…(笑)。

 

知らない制度のことなんかも教えてくれるので、他社さんとの交渉もスムーズにいったりして。

一和多

縁の下の力持ちであり、良い女房役って感じのご主人ですね(笑)。

利用者さん、看護師にとってのメリットを考えた複数同行

一和多

練馬区で訪問看護をされていて、このエリアの地域の特徴とかってありますか?

早間さん

特徴としては、病院の少なさからくる在宅ニーズの高さですかね。

色々と区の会議とかにも参加させてもらってるんですが、そもそも練馬区には病院が少なくって、あと、緩和病棟がないんですよ。

一和多

言われてみると、練馬区って緩和病棟のイメージないですね。

早間さん

そうなんです。

だから、お看取りとなると、周辺の病院まで家族が遠くに行かなくてはいけなくなります。

そこで病院から「自宅でも看れるよ」と言われて、訪問看護を選択する方からの依頼が多いですね。

ですので、おそらくこの辺りでは、自宅でのお看取りを選択される利用者さんは多いと認識しています。

坂本さん

あと、病院の相談員さんから聞いた話だと、練馬区・板橋区・豊島区あたりを含めて、病床の数に制限があるそうです。

その中でも、板橋区と豊島区に病床数が多いので、結果的に練馬区の病床数が少なくなってしまっている。

だから、病院側のニーズとしても、練馬区では在宅が多くなっているみたいですね。

早間さん

にも関わらず、練馬区って高齢者がすごく多いんですよね…。

そんな背景があるので、練馬区は東京23区の中でも、高齢者の介護事業には力を入れているエリアなのかな? という気がしています。

一和多

こちらはママさん看護師が多いと伺いました。

働き方としては、月10日ほどのお休みを自己申告できたり、出勤スケジュールの相談ができたり、といったことができるそうで。

働きやすさという点では、現場に喜ばれるんじゃないですか?

早間さん

そうですね。

学校行事や保育園の送り迎えがあるスタッフもいるので、働きやすい環境だと思いますよ!

一和多

ただ、こちらは24時間365日で事業所の運営をされているので、どうしても人手が手薄になってしまう時もあるのではないですか?

早間さん

そこは、土日祝の勤務などで手当をつけて、稼ぎたい人はたくさん稼げるようにしています。

また、Wワークをしていて「土日だけ働きたい」といったスタッフもいるので、うまくまわっていますね。

一和多

ママさん看護師が多いと、カンファレンスや会議で時間を合わせるのが難しいと思いますが、その点はどうされていますか?

早間さん

うち、会議は全然やらないんですね。

そもそも、私自身が会議があまり好きじゃないんです。

発言出来る人は出来るけど、何かを思っていても言えない人は結局その場で流れちゃうじゃないですか。

早間さん

なので、何かあったらその都度言って頂いて、その場その場で解決するように心がけています。

その方が絶対に早いし、効率的だと思うんですよね。

 

ただ、みんなの時間を調整してしっかりと振り返りをする必要のあるケースは、しっかりとやっていきたいな、と思っています。

一和多

こちらでは、臨床経験2年ほどのスタッフの方も働かれていると伺ったのですが、教育・サポートはどのように?

早間さん

同行訪問の期間をかなり長く取ります。

また、特定のスタッフを教育担当として付けることはせずに、色々なスタッフが色々な訪問に同行するようにしています。

一和多

それは訪問自体も、担当制ではなくチーム制で?

早間さん

そうです。

訪問看護サービスの特色上、利用者さんへの関わりでは、どうしても主担当者の考えが深く入っていってしまいます。

意図的に、同じ利用者さんに同じスタッフが入り続けないようにすることで、利用者さんの望んでいない方向に進んでいくことを防げたり、利用者さんもいろいろな人の意見を聞いたりといったメリットがあると思っています。

坂本さん

利用者さんとの相性もありますよね。

相性が良い時はそのままで良いのですが、相性が悪い時に「相性が悪いので担当を変えましょう」というのは際限がありません。

坂本さん

プロとして大切なのは、相性が悪いなりにも平均点の仕事をすることです。

その平均点を出すためにも、利用者さんにも色々な人のサービスを受けてもらうのが良いだろうというのが、会社としての考え方ですね。

もちろん、スタッフ一人一人には良い面も悪い面もありますから、事業所全体としてのサービスの質の担保という点では、管理者が責任を持って管理しています。

早間さん

新人スタッフには色々な人と同行してもらい、

「スタッフにも色々な考えがある。

だから人が違えば見方も変わるし、考え方も変わるし、やり方も変わる。

その中で、自分で考えて自分のやり方を見つけてほしい。

誰かのやり方と自分のやり方の違いや意味を考えてほしい」

と伝えています。

 

そこをスタッフに考えてもらうのは、事業所としても大切にしているポイントです。

興味のなかった在宅看護で、自分の理想のステーションを作るまで

一和多

ここからは、管理者さんのご経歴を教えてもらえますか?

早間さん

出身は愛知県です。

看護学校を卒業後、そのまま系列の総合病院の胃腸科に入職しました。

急性期で、ICUで、手術もついていて…と、病棟での基本的なことは大体教えてもらえたと思っています。

早間さん

その後は、結婚や出産があって転職をしたのですが、子どものことで夜勤が難しくなってからは、救急外来で働いていました。

それからまた、子どもの兼ね合いで東京に出てくることになり、こちらで転職したという経緯です。

一和多

訪問看護は、いつ頃からはじめられたのですか?

早間さん

東京に出てきてからですね。

子育てとの両立ができる職場の中から選んでいくと、夜勤がなくて、ある程度のお給料も約束されている訪問看護が、最も条件に合致しました。

一和多

在宅に対しては、元々どのようなイメージを?

早間さん

それが全然(笑)。

私が看護学生の時は、まだ在宅実習が始まる前のカリキュラムだったので、訪問看護って全然イメージを持てていなかったし、興味もなかった。

一和多

ワークライフバランスのためとはいえ、よくそれでやってみようと思いましたね(笑)。

早間さん

訪問看護ステーションの説明会に参加した時に、案内してもらった定期巡回サービスに、すごく感心したんです。

自宅で病院のようなサポートが受けられる点はもちろん、働く側もゆっくりと利用者さんのために時間をかけて関われるのは楽しそうだと感じました。

病棟にいた時は、患者さんの伸びている爪に気付いても、時間がなくて切ってあげられないようなジレンマを感じていたので。

一和多

実際に訪問看護の現場に入られてから、戸惑ったことなどはありましたか?

早間さん

それはもう、すべてですね。

「指示書ってなに?」「報告書って?」という状態でのスタートだったので(笑)。

 

ただ、最初にお世話になった事業所が、事務さんもヘルパーさんもケアマネさんもいる職場だったので、すぐ近くでその都度相談できたのは本当に助かりました。

逆に、これまで病棟で働く中では知らなかった「他職種の方から看護師はこんな風に思われている」ということも知ることができたので、自戒にもなってすごく良い経験でした(笑)。

一和多

訪問看護を初めて経験する場としては、すごく良い職場だったみたいですね!

それから独立をされようと思われたのは何故?

早間さん

運営会社の方針と自分自身がやりたい訪問看護とのズレを感じるようになっていったんですよね。

土日の訪問が思うようにできなかったり、希望する働き方をさせてもらえなかったり…。

坂本さん

彼女が言っている「やりたいこととのズレ」って、どこの会社でも、訪問看護ステーションを運営する上では、管理上、当たり前のことばかりだったんですけどね(笑)。

まぁ、それであれば、「自分たちが働きやすい環境での訪問看護ステーションを立ち上げよう」といった話になったんですね。

姉妹のわだかまりを溶かした一通の手紙

一和多

これまでの訪問の中で、印象深かったご利用者さんのエピソードを教えて下さい。

早間さん

ガン末期の60代前半の女性の方ですかね。

一和多

まだ60代で…。

早間さん

そうなんです。

シングルの方だったのですが、ご家庭のあるお姉さん家族と一緒に暮らされていました。乳がんが鎖骨に転移して、鎖骨が陥没して骨まで見えてしまっていて。

そこに膿が溜まってしまうので、清潔にして薬の処置をしないと臭いもすごくなってしまうんですよね。

坂本さん

二世帯住宅のような感じで、一階に妹さんである利用者さん、二階にお姉さんのご家族が住まわれていました。

妹さんのそのような症状の中で、一つ屋根の下に暮らしているので、もうお互いがやっぱり気を遣っているんです。

早間さん

お互いが、どうしても本音が言えない状況でした。

妹さんは「家に戻りたい」と思ってらっしゃいましたが、お姉さんにその本音を言えなかった。

そんな中、他の人からの後押しがあって病院から退院することになりました。

在宅が始まり、お姉さんは治療を頑張って欲しいと思っていらっしゃいましたが、妹さんは辛いからもう嫌だと治療を拒否していた。

一和多

仲が悪かった訳ではなく、お姉さんとしては純粋にもっと生きて欲しかったんでしょうね。

妹さんとしては精神的にも辛いから、このまま自然な方向で進めたいという気持ちの中で、意見が一致してなかったと。

早間さん

そうですね。

私たちが介入する前の話なので想像なのですが、おそらく、それまで入退院を繰り返すたびにお姉さんが付き添っていたと思うんですね。

家庭のあるお姉さんが自分のために付き添ってくれて、何かあると駆けつけてくれる。

妹さんとしては、お姉さんに対して「迷惑をかけていて申し訳ない」とずっと感じていたのだと思うんですよね。

早間さん

そんな中、私たちが毎日入るようになった最初の頃も、妹さんはやっぱり、他人を家にあげることに拒否感もあったようでした。

私たちとしては妹さんのご希望を叶えるよう、少しずつ最後のお看取りの方向には持っていきましたが、

「妹さん、お姉さんのどちらも納得していただけなければ、良いお看取りとは言えない」

とは心のどこかで思いながら動いていました。

早間さん

そうして関わっていく中で、ご本人もいよいよ声が出なくなってきた頃、妹さんから、お姉さんや私達に手紙がきたんです。

「もう苦しいことはやめて下さい。このまま静かに逝きたいです」

と。

早間さん

お姉さんもお手紙を見て、妹さんの気持ちが分かったようで、

「私のわがままだと気付きました。もう、妹の希望通りにしてもらいたい」

と言っていただいて…。

 

その手紙が、「ない力を振り絞って書いた最後の言葉」といった感じでして、私自身もすごく胸を打たれるものがありました。

一和多

それからは、どのような最期を?

早間さん

そこからは私たちのことも受け入れてくれるようになり、密に連携をとりながら動けました。

その後、最期は本当に静かに亡くなられましたね。

 

エンゼルケアをした時、お姉さんは妹さんのお洋服を選びながら、「妹はこれが好きだったんだよね」なんて言いながら宝石とかを持って来たりされて。

「本当に良かった」と言って、とても嬉しそうでした。

早間さん

妹さんとお姉さん、仲が悪かったわけではないのですが、やっぱり妹さんの病気のことで色々とわだかまりがあったらしいんです。

だけど最後は、妹さんの手紙によってそのわだかまりが溶けて、お互いがやって欲しい事を全部言い合うことができた。

そしてお姉さんは、エンゼルケアで最後の最後に、ようやく素直な気持ちが言えたんだな、と。

利用者のことを考えて看護をできる人

一和多

先ほどの妹さんとお姉さんのエピソードのように、どちらの選択も間違ってはいなくって、絶対的な答えのない中で、利用者さんのお宅に介入をしていくと、色々と考えさせられる場面がありますね。

早間さん

そうですね。本当に色々な方がいらっしゃいますので…。

その中で、うちの訪問看護ステーションとして大切にしたいのは、「利用者さんのことを考えられる」ということです。

早間さん

ただ与えられた指示書通りに動くのではなく、

「自分ならどういった関わりができるだろうか?」

「このご家族はこうしてあげたら喜ぶのではないか?」

「今はこれが壁になっているのではないか?」

といったことをしっかり考えたい。

また、その想いはずっと大切にしていきたいと思っています。

坂本さん

その思いを具現化するために、自分たちの訪問看護ステーションを立ち上げた、っていうのもあるしね。

一和多

お二人のその熱い思いに共感してくれる仲間が集まると良いですね。

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

練馬区のちょうど中心に位置する「石神井公園」

駅から歩いて10分強、閑静な住宅街の中の一軒家を事業所とする『訪問看護ステーションわかば』

訪問車の駐車場確保や、子育て中のスタッフの子連れ出勤へのスペース確保、夜間対応するスタッフが事業所に寝泊まりができるように、といった様々な状況を想定しつつ選択した一軒家の事業所は、まるで我が家のようにアットホームで穏やかな空気の流れる空間となっておりました。

そんな雰囲気が醸し出されるのは、社長・管理者のご夫婦が持つ、利用者さん第一で楽しんで訪問看護に取り組む姿勢や、とにかく前向きで明るいお人柄によるものが大きいのではないかと感じました。

なお、1ヶ月に1回ほど振る舞われる、社長(ご主人)のお母様の手料理も好評なようですよ!(笑)

取材・文章:一和多義隆

事業所情報

事業所名 訪問看護ステーションわかば
運営会社 株式会社フォーリーフクローバー
所在地 東京都練馬区富士見台3-12-21
最寄り駅 西武池袋線「富士見台」駅 徒歩9分
在籍人数 10名(看護師:常勤6名・非常勤4名)
従業員の平均年齢 30代半ば ※20~40代のスタッフが在籍
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