アメリカでみた、多職種の
必要性と必然性

インタビュー先の事業所とご担当者様

鈴木 直美さん 代表取締役CEO

訪問看護ステーション芍薬

横浜市神奈川区 / ブルーライン「三ツ沢下町」駅 徒歩3分

元公認会計士でMBAホルダー! 異色の経歴をもつ訪問看護ステーション経営者!

一和多

本日は元公認会計士でかつMBAホルダーという異色の経歴を持つ、

『芍薬訪問看護ステーション』代表の鈴木さんにインタビューをさせて頂きます。

よろしくお願いします!

鈴木さん

お願いします!

一和多

まず、鈴木さんは30歳まで公認会計士として働かれていたとのことで、なぜヘルスケア業界に進もうと思われたのですか?

鈴木さん

はい。公認会計士の仕事もやり甲斐はありましたし、一生懸命取り組んできた仕事ではあったのですが、30歳にさしかかった時に「これは私の人生をかける仕事なのかな?」と考えるようになったんですね。

 

それから、「本当に自分のやりたいことをしよう」と考え抜いて、たどりついた答えがヘルスケアでした。

一和多

なにか医療・ヘルスケアへの特別な想い入れがあったのですか?

鈴木さん

母が看護師だったんですね。

仕事ばかりでとにかく家に帰ってこない母親だったのですが、子どもながらに

「お母さんはとても重要な仕事をしているんだ」

と感じていました。

 

また、父が病気がちな人で、私にとって病院は身近な存在だったんですね。

一和多

なるほど、すごく納得しました!

一和多

ちなみに看護師になろう、医師になろうとは思わなかったのですか?

鈴木さん

実は、医師も検討していたんですよね(笑)。

ただ、30歳から医学部に進んだとした場合、一人前の医師になるまですごく時間がかかるでしょう?

鈴木さん

それなら、公認会計士のスキルも活かしつつ、経営やマネージメントの分野で医療・ヘルスケア業界に貢献したいなと考えました。

一和多

公認会計士を辞められた後は、外資系コンサルティングファームのヘルスケア部門で、病院経営をサポートするコンサルタントとして3年間勤務。

その後、渡米をされているんですね。

また思い切った決断をされたように感じるのですが、なぜ渡米を?

鈴木さん

渡米に至った理由の一つが、主人の海外駐在が決定したからなんです。

一和多

そうだったのですね!
ただ、ご家庭の事情があったとはいえ、公認会計士から一念発起して転職された、コンサルのお仕事を辞めることへの抵抗は無かったのですか?

鈴木さん

あまり無かったですね。
実は、渡米への決意に向かわせたもう一つの理由が、コンサルティングの仕事を通じて、自分の無知さと無能さに気付いたからなんですね。

鈴木さん

本格的に経営マネジメントというものを勉強しないと、「なんちゃってコンサルタント」で一生が終わってしまうぞ、という危機感を抱いていましたので…。

一和多

コンサルタントとしての守秘義務もあると思いますので、詳しくお伺いはしないのですが、色々と大変なことがあったのでしょうね…(汗)。

一和多

それで、渡米した先でMBAを取得、帰国後に起業といったご経歴ですね。
帰国後はなぜご自身で起業をしようと?

鈴木さん

私、ノミの心臓なんですよ。

一和多

ノミの心臓???

鈴木さん

はい、ノミの心臓です(笑)。
なので、自分で分かっていることしか自分の仕事にしないんですね。

起業って、一般的にはリスクが高い選択だと思われがちですが、一方で、自分で業界を選択して、事業判断ができる点が魅力だと思っています。

自分が全く知らない業界に飛び込むリスクに比べれば、業務経験があり、さらに一生懸命勉強をしたヘルスケア業界で起業をした方が、私にとってはリスクの低い選択だなと。

一和多

なるほど。。。
ノミの心臓なのか、心臓に毛が生えているのか(笑)。

アメリカの医療現場で感じた違和感とホスピスとの出逢い

一和多

アメリカに滞在している時、向こうの医療現場を色々と見て回られたんですよね?

鈴木さん

そうですね!

病院をはじめ、ナーシングホーム、アシステッドリビング、ホスピスなど、様々な施設を見て回りました。

一和多

アメリカの病院ってどんな感じなんですか?

鈴木さん

率直に、すごく冷たい印象は受けましたね。

鈴木さん

私の興味のある領域が医療チームにおけるリーダーシップやチームワークにあったのですが、向こうの病院は本当にバラバラなんですよ。

一和多

チームワークが機能していない?

鈴木さん

う~~~ん。

アメリカで私が視察した病院では、職種毎にユニフォームが全部違うのですが、私がインタビューした医師は何色が何の職種かってことすら覚えていなかったんですね。

(たまたまその医師が、そういう方だったのかもしれませんが…。)

鈴木さん

医師が他職種に対してそんなに無関心で、「チーム」なんてできるわけがないんですね。

「医療職でチームを創っていくことはハードルが高いなぁ…」

と、ひしひしと感じました。

鈴木さん

あと、病院で勤務しているスタッフが能面だな~っていうのも印象的でした。

まったく笑顔を見せないですし、「仕事のため」と割り切って感情を押し殺しながら働いていることがすごく伝わるんです。

そういうのって、雰囲気でわかるじゃないですか?

一和多

他職種に関心がないし、スタッフは能面だしでは、軽く絶望しますね…。

鈴木さん

まさにそんな心境の時に出逢ったのが『ホスピス』だったんですよ!!!

鈴木さん

ホスピスはもう全然違ったんですね。

スタッフの会うひと会うひと、みんな表情が活き活きしていて、私が見学した他の医療施設とは雰囲気が全然違いました。

鈴木さん

あの当時は「日本に帰ってから何をしよう?」と考えながら毎日を暮らしていたので、あの出逢いと、徹底的にホスピスを見学してまわった時間は私の宝ですね。

病院とホスピスとの違いはどこに? スペシャリストが集う米国のホスピス現場

一和多

ホスピスと病院とでは何が違ったのでしょう?

鈴木さん

まず大前提として、ホスピスでの業務は、『ヴィクトール・フランクル』(※)じゃないですが、「意味ある重要な仕事」としてスタッフのモチベーションを刺激するのだと思います。

「人生の最期に立ち会う」仕事なので、これは万国共通の感覚なのではないでしょうか。

※ヴィクトール・フランクル: オーストリア出身の精神科医であり心理学者。アウシュビッツ収容所での自身の体験談を著した『夜と霧』で知られている。

鈴木さん

一方で、病院はそのような感覚が麻痺してしまっているような感じですかね。

一和多

アメリカの病院はわからないのですが、日本の病院に関して言えば多忙すぎて思考を麻痺せざるをえない状況に追い込まれているようにも感じますね…(汗)。

一和多

他にも何か、ホスピスの大きな特徴などはありましたか?

鈴木さん

マネージメントの仕組みが、非常に専門特化していますね。

鈴木さん

米国のホスピスって、医師がいて、看護師がいて、ソーシャルワーカーがいて、チャプレンがいて、ボランティアがいて、その全てのスタッフがいないと成立しないし、いないといけないんですね。

さらに、それぞれの職種に資格も要求されます。

一和多

通常の看護師や社会福祉士の資格とは別の資格ですか?

鈴木さん

そうです!

例えば、ソーシャルワーカーで言えば、社会福祉士の資格は4年制大学で取得できるのですが、そこから更にマスタークラスを卒業していないとホスピスでは働けないんですよ。

 

それぞれの部署を専門家ばかりで配置しているイメージですね。

一和多

それだけスペシャリストばかり集まっていると、意見の対立やコミュニケーションエラーが起きそうな感じもしますね。

鈴木さん

あちらのホスピスには、『CoPs(Conditions of Participation)』という施設基準があるのですが、その基準の1つに「多職種で検討をする」って点が入れられていて、それが監査の対象なんです。

鈴木さん

その監査がまたしっかりしていて、定期的に開かれるミーティングで、「このような話し合いをしました」という議事録を全て残して、それを提出する必要があるんですね。

鈴木さん

そういった制度もまた一役買っているとは思うのですが、とにかく多職種でよく話し合っていますね。

ホスピス緩和に特化した訪問看護。必要となる多職種による専門性の役割分担

一和多

ここからは『芍薬訪問看護ステーション』についてお伺いをできればと思います!

こちらではどのようなステーション運営をされているのですか?

鈴木さん

まず、うちの大きな特徴は『ホスピス・緩和』に特化している点です。

うちでの『緩和』とは、WHOの定義に則った、純粋な意味での緩和ケアになります。

一和多

緩和ケアって、ガン末期の利用者さんのイメージが強いのですが、WHO定義とはどういったものなのですか???

鈴木さん

日本ではそういったイメージが強いですよね。

日本で非がん疾患での緩和ケアについて取り上げられはじめたのは、まだここ数年の話なんですよ。

鈴木さん

例えば、慢性期でも緩和ケアに当てはまる方はいます。

緩和ケアの対象者って、「生命を脅かす疾患に直面している方」なんですね。

非可逆的に徐々に悪くなっていっている状態でも、生命を脅かす方向に向かっているという観点から緩和ケアの対象となるんです。

鈴木さん

「多職種でのステーション運営」もうちの特徴ですね。

一和多

訪問看護ステーション単体でソーシャルワーカーが在籍している事業所はあまり聞かないですね。

鈴木さん

そうだと思います。

凄く印象深かったある利用者さんとのエピソードがあります。

 

小児の利用者さんだったのですが、医療的にはすごく軽い子どもだったんですね。

ちょっとした吸引くらいで、気管切開もしていないし酸素も入っていない。

 

ただ、お母さんの受け入れが全然できていなかったんです。

一和多

お母さんがお子さんのケアについて悩まれていた?

鈴木さん

ケアで悩むということではなく、お母さんはお仕事をされたい方だったんですね。

家のローンもあるし、しっかり仕事をしたい方だった。

鈴木さん

ただ、そんな想いを病院では誰にもわかってもらえなかったと言うんですね。

「こんな子どもを抱えて仕事をするなんて、虐待をする気ですか?」と退院する時にも言われたそうなんです。

一和多

医療者の視点からはそういった考えも理解できるのですが、お母さんの気持ちもわかりますね…(汗)。

鈴木さん

はい…。

うちの看護師もまったく同じことを言ったんですよ。「仕事どころではないでしょう」と。

鈴木さん

ただ、私の考えは彼女たちと違っていて、「職場復帰できる」という安心感が得られることで、家庭で子どもに優しくなれると思ったんです。だから、このお母さんには就業支援が重要なのだと。

鈴木さん

これは「専門性」の話だと思うんですよ。

看護師は身体的な痛みを取り除くだけでも大変な専門性ですし、就業支援はそれ1つでも専門性を必要とするものじゃないですか。

一和多

誰でも専門外のことの判断は難しいですよね。

鈴木さん

そうですね。それが『認知の限界』です。

社会心理学者も言っていることなのですが、人間は自分がソリューションを持っていない事柄を軽視してしまう傾向があるんですね。

鈴木さん

例えば、外科医は外科的な処置方法しか思いつかないのと一緒で、だから呼吸器センターって外科医も内科医も一緒に検討したりするでしょ?

一和多

そう言われると1つの職種で全人的なケアをしていくことの限界がよく理解できますね。

鈴木さん

そうなんです!

だからうちでは多職種でチーム運営をするんです。

鈴木さん

ホスピス緩和ケアって4つの領域があるじゃないですか。

「身体的苦痛」、「心理的苦痛」、「社会的苦痛」、「スピリチュアルペイン」。

鈴木さん

アメリカの在宅ホスピスでは、それを「看護師」、「ソーシャルワーカー」、「チャプレン」のチームで担っていくのですが、日本の訪問看護ステーションでは看護師ひとりで全てを背負い込んでいますから。

在宅医療・緩和ケアの現場で必要とされる看護師の感性と感受性

一和多

鈴木さんは、なぜ訪問看護をやろうと思ったのですか?

ホスピスがやりたいのであれば、他にも選択肢はあったのではないかなと。

鈴木さん

米国のホスピスの現場でも、看護師が中心になっていたんですね。

医師は訪問すらせず、全面的に看護師に任せていた。

 

そのイメージがすごく強かったので、日本で起業する時も看護師を中心にしていきたいなと思っていました。

一和多

在宅医療の中心は看護師だと言われる医療者は多いですね。

鈴木さん

そうですね。

 

また、在宅医の中には、

「生活の場では、患者・家族にとって医療はあまり目立たない方が良い」

と仰っている方もいるんですね。

父がずっと病気がちだった私自身を振り返ってみて、家族の立場からみてもこの言葉はとてもしっくりくるものでした。

一和多

訪問看護ステーションを7年運営されてきて、看護を中心にしたことは間違っていなかったと感じますか?

鈴木さん

はい。うちは特に、在宅ホスピスや緩和ケアがメインだったので、この判断は間違っていなかったと思っています。

鈴木さん

最近つくづく感じるのですが、看護師の専門性の本質って、

「たとえ自身の常識からは想定し得ない体験だとしても、対象者が体験していることをありのままに理解し、その意味を考えること」

だと思うんです。

一和多

かなり概念的な捉え方ですね…(汗)。

その「想定し得ない体験」とは、例えばどのようなケースですか?

鈴木さん

例えば、

「過去に何度もがん末期であることを医師から伝えられた患者さんに病識がないように見える」

といったケースがありました。

鈴木さん

「この患者さんは本当に病識がないのか?」

「それとも分かっていても、それを口に出したくないのか?」

「だとしたらそれは何故なのか?」

 

その時は、考えて考えて考え抜いて、仮説を立て、その仮説で患者さんに接してみて、仮説を覆すような言葉を患者さんが発したら、そのたびに看護計画を柔軟に見直す…、ということの繰り返しなんですね。

鈴木さん

これって、ものすごく高い専門性だと思ったんです。

何年も何年も人間に深く関わって、そして対象者の体験を大量のケースを通じて考え抜く、といった反復を続けないと身に付かない専門性なのではないかなと。

一和多

本当の意味で「人と向き合う」ための気構えやトレーニングが必要となりますね。

鈴木さん

そう。ホスピス・緩和ケアナースの教育には、『哲学的対話』が重要だとも言われているくらいですから。

鈴木さん

やはり、ホスピス・緩和ケアにおける「深い人間理解」に関する専門家は看護師で、それは医師に求められる専門性や社会的役割とも相当違うんですよね。

「看護」というものを知れば知る程、「看護師を中心にすえたホスピスケアのチームづくりは間違っていなかった」と確信するようになっていきましたね!

一和多

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

神奈川県横浜市を中心に2つの事業所を展開する芍薬訪問看護ステーション。

こちらを率いる代表の鈴木さんは、公認会計士としての目、医療経営の専門家としての目、そして海外の医療現場を見てこられた目と、様々な視点をもちながら訪問看護ステーションの組織運営をされています。

その考えは非常に論理的かつ複眼的で、あと何より熱い!(笑)

現在の医療現場に違和感を持たれている方や、本気でホスピス・緩和に取り組みたいと考えている方は、まずは一度鈴木さんとお話をしてみはいかがでしょう?

きっと、これまで知らなかった知識や新しい価値観をもらえると思いますよ!

取材・文章:一和多義隆

事業所情報

事業所名 訪問看護ステーション芍薬
運営会社 株式会社GCI
所在地 神奈川県 横浜市 神奈川区 三ツ沢 下町 6-16
最寄り駅 ブルーライン「三ツ沢下町」駅 徒歩3分
在籍人数 7名(看護師:常勤4名・非常勤3名)
従業員の平均年齢 40.4歳

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事業所名 訪問看護ステーション芍薬青葉
運営会社 株式会社GCI
所在地 神奈川県 横浜市 青葉区 藤が丘2-37-1
最寄り駅 東急田園都市線「藤が丘」駅 徒歩3分
在籍人数 5名(看護師:常勤3名・非常勤2名)
従業員の平均年齢 45.2歳

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