型にハメない・ハマらない
東村山市の訪問看護事情って?
よろしくお願いします。
東京都東村山市って、タレントの『志村けん』さんのご実家があることで全国的にも有名でしたね。
はい、懐かしいですね(苦笑)。
若い方は知らないかも…(苦笑)。
このエリアのご利用者の特徴は何かありますか?
具体的なデータではなく、あくまで私の肌感ですが、代々この土地に住んでいる方は少なくて、このエリアに移住してきた1代目、2代目の方が多い印象です。
あとは各町に都営住宅があるので、そこに暮らすご高齢者は多い。
さらに加えると、この東村山市の西部地区には訪問看護ステーションが無いですね。
「少ない」ではなく「無い」? (※2019年9月時点)
はい、そうです。
なので、年々高まっていく在宅ニーズに対して、サービス供給に不安があるエリアだと思っています。
そうなると、ここで訪問看護をされる奥田さんへの期待は大きいですね。
責任重大だ……。
えぇ…(苦笑)。
えっと、、、頑張りますっ!
看護でもそれ以外でも、色々なことを経験した先の訪問看護
奥田さんはご出身から東村山なのですか?
いえ、私は名古屋出身です。
看護学校は岐阜で、その後、名古屋の大学病院に入職しました。
病院での配属はどちらに??
内科系の病棟でしたね。
あとは泌尿器外科にいた時期もありました。
そもそも「1つの領域を極めたい」というよりも、「色々な領域を経験したい」という思いが強かったので、病棟だけでなく外来へ行ったり、老健やデイサービスで働いたりもしました。
本当に色々な場所を経験されているのですね!
そうですね。
「看護以外の仕事もしてみたい」と考えて、違う仕事もしていたくらいなので…。
え、看護以外のお仕事も…!?
具体的にはなにをされていたのですか??
神戸のホテルでウェイターをやっていました。
結婚式やディナーショーで料理の配膳をしたり…。
本当に看護とは全く関係ない仕事!!
すごく興味本位な質問なのですが、その時の経験で今に活きているものはありますか?
あります!あります!!!
ホテルって、とてもキッチリとした接客が求められるんですね。
お客様を観察して、その方が求めているものを察する力ですとか、イベント全体の流れを見ながら他のスタッフと足並みをそろえて行動するという視点などは、今でもすごく役立っています。
接客業における「心遣い」を叩き込まれて、それは病院では学べなかったことですね。
なるほど…。
在宅看護では特に役立つスキルかもしれないですね!
その後はどのようにして訪問看護の道へ??
私、学生時代から「ホスピス」に興味があって、ホスピスやターミナル系の本をたくさん読んでいたんです。
「ホスピスだと終末期の方でも、まるで自分の家のように過ごすことができるんだ」
と考えて、自分もそんな看護がしたいなと漠然と思っていました。
その後、私が20代後半の頃に介護保険がはじまって、在宅に関わる制度が整い始めたタイミングだったんですね。
「ここなら自分の望む働き方ができそうかな?ちょっとやってみようかな?」
と軽い気持ちで足を踏み入れたのが訪問看護でした。
終末期に興味のある方が訪問看護に流れてくることは多いですね。
実際の訪問看護の現場はいかがでしたか?
すごく楽しかったです!
「1対1で、本当にその人のためだけに(看護が)できる」
という点にすごく惹かれました。
「私が本当にやりたかったことはこれだ!」と、心から思いましたね。
学生時代に抱いていたホスピスに対するイメージが、在宅でうまくマッチしたのですね!
そこからは訪問看護一筋だったのでしょうか??
そうですね。
一時期、自分に足りない手技や最近の病院というものを学びたくて期間限定で病棟勤務をした時期もありましたが、基本的にはずっと訪問看護です。
東京でステーションを立ち上げられたのはどのような経緯で?
私、東京に来るまでは神奈川とか長野とか…各地を転々としていたんです(苦笑)。
ご縁があってたまたま東村山に住むようになって、訪問看護を立ち上げたのもなんとなくの流れでした…。
えぇ…(苦笑)。
「自分の理想のステーションを創り上げたい!」とかそういうのではなく??
多少は「自分の思い通りのステーションができたら楽しいな」という思いはありました(笑)。
ただ、それまでも複数のステーションで働いてきて、私はどこで働くのも楽しかったので、自分でステーションを持つことはそんなにこだわっていませんでした。
病院時代は、「この病院は合わないな…」とか「この人とはやりづらいな…」と思うこともありましたが、
訪問看護はどこで働いてもなんとなく「仲間」って感覚が強かったです。
仲間、ですか。
それは病院勤務とはまた違う感覚で??
そうですね。
訪問看護で長く働かれる方って、色々な考え方はあっても、基本的には向いている方向は同じだと思うんですよね。
だから、一緒に働いていてストレスが少ないというか…。
これって、私だけなのかな?(苦笑)
看護観が近しい人が残っていくのでしょうね。
あと、訪問看護の場合は1人での時間も多いですよね。
その適度な距離感が良いとか?
あ~~~、それもありますね(笑)。
決まりごとの少ない在宅の現場で求められる思考の転換
「さんふらわぁ」でここは大事にしている! というとこはありますか?
はい、臨床経験や、看護や医療の知識というより、
利用者さんが自宅で生活することへの関心とか、そのなかでの利用者さんや家族との自然なコミュニケーションとか…
そういう部分を大事にしたいと思っていますね。
なるほど。
在宅ですと、医療的な関りと、生活や家族への関りがありますよね。
特に生活や家族への関りには在宅ならではの部分があると思いますが、訪問看護未経験の方にはどんなふうに伝えていらっしゃるのでしょうか?
そこはとても難しい点ですね。
よく、病院から在宅に来たスタッフは
「病院では色々な決まりのなかで看護をしてきたから『こうでなければいけない』という思いにとらわれてしまう」といったことを言いますね。
病院時代の「枠」から抜け出せないという感じでしょうか…?
はい、ルールに意識がいきがちで、在宅でいざ何かしようと思ったときに戸惑ってしまうんですね。
そういうとき私は「なんでもやってきてください」と伝えています。
それが成果として出ればいいし、
もし成果として出なければ何が失敗したのかを共有したり反省したりして「じゃあこうやってみたら?」とサポートしています。
生活や家族との関りの部分では、病院での関わりと違って、スタッフそれぞれに違いが出そうですね。
そうなんです。
医療的な関りとは違って「指示」がありませんから、自分で感じ取って関わる必要がありますね。
その感覚をスタッフに伝えることがとても難しくて、今でも悩んでいます(汗)。
でも、
利用者さんや家族が、何を考えていて、何を望んでいるのかを受け取って、それを返していく
そんなやりとり自体が「本当の看護なのかな」
と、私は思うんです。
ただ、そういった思考って、極端な話、看護師でなくてもできることなんですね。
なので、その部分を「看護師として」支援していくために、必要なことをどうやってスタッフから引き出していくか、そこが私自身としてもまだまだ課題となっています。
「さんふらわぁ」は、オンコールの負担や残業が少ないとお聞きしましたが、他にもスタッフの働き方で意識されていることはありますか?
ママさんナースや、プライベートを重視したい方が働きやすい環境にしたいとは思っています。
土・日・祝日に休みがとりやすかったり、働き方を柔軟に相談できたり。
あとは、教育面ですね。
「さんふらわぁ」は管理者の私と、同じく看護師の夫との二人体制で管理と教育にあたっているので、手厚くサポートしていくつもりです。
特に、同行訪問はそのスタッフが「大丈夫!」と思えるまでサポートしたいなと。
例えば、利用者さんが「もういいんじゃない?」と仰っても、スタッフが「いや、もうちょっと…」と言ったらまた同行をします(笑)。
それが結局は、利用者さんの安心につながると思うので。
そこは奥様とご主人が二人体制でサポートしているからこその強みですね!
はい。
スタッフが「こっちが駄目だったらこっちに聞いて、こっちが駄目だったらこっちに聞こう」と、1人ではなく2人からのフォローを受けられる安心感を持ってもらえたら嬉しいですね。
在宅看護は細部に宿る
これまでの訪問看護での経験で、奥田さんにとって印象深かったご利用者を教えてください!
やはり、一番初めに訪問に行った利用者さんですね!
特にお看取りや難病といった方ではなかったのですが、今でも忘れられないケースです。
どういったケースだったのですか?
それこそ先ほどの「この人は何が必要だと思っているのか」ということをすごく考えさせられるケースでした。
(訪問看護が)はじめてだったので、たくさん失敗もしたのですが、何も分からない新人訪問看護師の私を、利用者さんも家族も、とにかく受け入れてくれたんですね。
その経験があったからこそ今があるのだと思います。
はじめての訪問看護でとまどうのは誰しもが通る道ですね…(汗)。
利用者さんはどのような方だったのですか?
女性で、80歳くらいだったと思います。
ご病気は…、たしか脳梗塞だったような…?
その影響でまったく体を動かせなくて、雰囲気としても「もう老衰が近いな」という方でした。
旦那さんが家事も介護もすべてされていて、旦那さんも80代だったと思います。
その時代で、男性が家事や介護を全てされるのは珍しかったのでは?
そうですよね。
私たちも頼んでいいのだろうかと思うことがありましたが、その旦那さんは「いいですよ、いいですよ」と動いてくださる方でした。
私が「こうしてみたい」と提案することも受け入れてくださいました。
失敗することもあったのですが、そうしたら旦那さんが「じゃあこうしてみたら?」とアドバイスをくださって…。
すごく受け入れの良いご家庭だったのですね。
はい。
おそらく管理者も、新人訪問看護師の私だからこそ担当にしたのだと思います。
あと、偶然ですが私の自宅がご近所で、何かあったら駆けつけるのに私がちょうど良かったんですね(笑)。
それは便利ですね(笑)。
はい(笑)。
夜間も何度か行きました。「ごめんね、ごめんね、夜に呼んじゃって」と仰っていましたね。
実は私の前は大先輩が訪問していたので、はじめは「来たよ」と言えないほど自分が緊張していたことを覚えています。
旦那さんから「そんなに緊張しなくていいよ」とやわらげて頂いて…(苦笑)。
ベテランから新人へのバトンタッチだったんですね。
それは緊張しそうだな…(笑)。
はい(笑)。
でも旦那さんが「あなたができることをやってくれればいいよ」と言ってくださって…
失敗もあったのですが、私も一生懸命でしたね。
たとえばどんな失敗が?
本当に簡単なことですね。
眼脂がうまくとれないとか、オムツがうまくあてられないとか。
そうすると、旦那さんのほうが介護のベテランなので教えてくださって。
本当に些細なことからなのですが、でもそういった経験がすごく自分の基本となっていきましたね。
今でも活きているというわけですね。
そう思います。
例えば、在宅ではオムツ交換ひとつとってもすごく重要なんですね。
ちゃんとあてていないで漏れてしまったとき、病院だったら身近にスタッフがたくさんいますが、在宅ですとご家族が対応しますよね。
もし、その方が独居だったら、ずっと冷たいまま次の日まで過ごすかもしれない。
こういう細やかなことが大事なのだな…と教えて頂きましたね。
確かに、在宅ではそういった一つ一つが生活に直結していきますね。
ちなみにその方の訪問はどのようにして終わられたのですか?
私が別の職場に移ったタイミングでした。
でも、そのあとも年賀状のやりとりをしていましたね。
十何年ぐらいだったでしょうか…。
十数年も…(汗)。
はい。
最後はお返事が来なくなって、もしかしたら旦那さんも亡くなったのかもしれないですね。
「なんでやってないの?」ではなく「それイイね!」と言い合えるチームを
ここまでお話を聞いてきて、奥田さんは個々人が持つ考えや、「枠」にとらわれない考え方をとても大切にしているのだなと感じました。
たしかに「自由」が好きですね(苦笑)。
私はいま訪問看護ステーションで管理者をしていますが、スタッフを自分色に染めたいとは思わないんですね。
在宅は自分の看護ができる場所で、そこがやり甲斐にも繋がっているのだと思います。
例えば、病院ですと、すぐ近くに怖い先輩がいて「なんでこれしてないの?」とか言われることもあるじゃないですか?
一方、在宅では自分自身が利用者さんとしっかりと向き合っていくことの方が重要で…。
病院では医療的な管理という都合上、スタッフも患者さんも、どうしても枠にはめていく必要がでてきてしまいますね。
はい。
でも在宅では、誰かから言われたことだけをやるのではなく、やったことを持って帰ってきて「こういうことしたんです」って言ってもそれを咎める人はいないというか。
「それ良かったね!」と受け入れてくれるといいますか…。
みんなそれぞれ看護の考え方がありますし、
それぞれがルールの範囲内で自由にやっていって、「それいいね!」と言い合えるチームが良い
と思うんです。
それが例え1年目の人だったとしても、それが良いことであればみんなで共有したい。
奥田さん自身も他のスタッフも、みんなが自由に、自分のやりたい看護や目指すものを叶えるための場所として「さんふらわぁ」がある…と。
そうですね!
まとめてくださってありがとうございます(苦笑)。
こちらこそ、本日はありがとうございました!
取材を終えて
東京都東村山市、訪問看護過疎エリア(!?)でステーション運営をする「さんふらわぁ訪問看護リハビリステーション」。
在宅看護への熱い想いを持つ方や、ビジネス面での興味・関心が高い方も多い訪問看護ステーションの立ち上げ管理者の中で、そのどちらにも属さない、熱くもなく、ただ決して冷めてもない、人肌程度の心地よい温度感で訪問看護という仕事に向き合う奥田さんの姿勢がとても印象的でした。
率直なところで言えば、上昇志向の強い方や、ガンガン働いてガンガン稼ぎたい方に「さんふらわぁ」は合わないと思います。
ひとりひとりの利用者さんとしっかりと向き合いながら、自由に考えて、チームで話し合って、無理のない働き方ができる職場です。
訪問看護のリソースが少ないこういった土地だからこそ、焦らず・気負わず末永く地域医療を支えていく、こういった安定感が重要なのかもしれないですね。
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | さんふらわぁ訪問看護リハビリステーション |
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運営会社 | 株式会社SUNFACE |
所在地 | 東京都東村山市美住町2-3-13-401 |
最寄り駅 | ・西武新宿線/国分寺線「東村山駅」西口より徒歩約10分 ・西武新宿線「久米川駅」南口より徒歩約10分 ・西武多摩湖線 「八坂駅」改札口より徒歩約13分 |
在籍人数 | 看護師5名、作業療法士1名 |
従業員の平均年齢 | 30~40代のスタッフが在籍 |
ステーション詳細 | » より詳細なステーション情報を見る |
西武新宿線「西武新宿」駅から急行で30分ほど、「東村山」で看護師同士のご夫婦でステーション経営をされている、『さんふらわぁ訪問看護リハビリステーション』の管理者、奥田さんにお話お伺い致します。
本日はよろしくお願いします!