訪問看護のイメージを越えて

インタビュー先の事業所とご担当者様

黒沢 勝彦さん 所長

LIC訪問看護リハビリステーション

東京都府中市

気軽なコミュニケーションを育む環境

一和多

本日は、駅前の開発著しい「府中」駅に事業所を構える、LIC訪問看護リハビリステーションで所長をされている、黒沢さんにお話を伺います。

 

よろしくお願い致します!

黒沢さん

よろしくお願いしますっ!!!

一和多

私も、色々な事業所さんをお伺いさせて頂いておりますが、こちらの事業所は、建物の構造が非常にユニークですね。

平面ではなく、立体での空間づくりというか。

 

これは、スタッフのコミュニケーションが生まれやすいよう、意図的にこのような場所を選ばれたのですか??

黒沢さん

う~~~ん、、、。

 

赤裸々に申し上げると、建物のつくりとしては、コミュニケーションしづらいです(笑)。

一和多

(笑)

黒沢さん

ただ、コミュニケーションが生まれる仕組みづくりは、すごく大切にしています。

 

例えば、うちはフリーデスクで仕事をしていて、

 

「誰がどこに座っても良い」

 

としたスタイルなんですね。

 

本当は、自分の作業スペースとかデスクが、確保されているほうが、仕事はしやすいと思うのですが、

そこをあえて固定化せず、お互いが遠慮をしないで、自由なコミュニケーションが生まれると良いなと考えています。

一和多

たしかにリラックスできて、開放感があって、気軽に会話が生まれるような感じはしますね。

 

個人的には、この堀りごたつのスペースも、すごく好きです(笑)。

黒沢さん

ありがとうございます。

 

こたつスペースを使う人は、割と固定化されてしまっているんですよ(笑)。

社長とかリハの課長とか。

 

あとは、体調が悪いメンバーがここで休憩したり、寝ていたり、そんなエリアになっています。

一和多

居心地の良い友人宅へ遊びに来たような楽しい空間ですね!

 

私は好きですよ(笑)。

対話を大切にする、サブスペシャルを尊重する働き方

一和多

こちらのスタッフさんは、若い方が多い印象なのですが、

皆さん訪問看護は、未経験で入られている方が多いですかね?

黒沢さん

教育という部分では、まだまだ構築途中ではあるのですが、

コミュニケーションとOJTの部分をすごく大事にしています。

 

特に、「対話を増やす」という点は、気をつけていますね。

 

例えば、4月に新卒のセラピストが入職をしたのですが、

伝達講習を受講した彼が、逆にうちのスタッフ向けに時間をとって講習を開いてくれたんです。

こういった場が、うちの教育にもつながっているのかと思います。

一和多

上から下に教えるというよりは、双方向的に対話をするという意識づけなんですね。

 

他にも、コミュニケーションが発生する仕組みなどはありますか?

黒沢さん

朝礼のあと、20分間のカンファレンスを毎日しています。

 

時間的には、かなりタイトなのですが、

昨日あったこと、共有しておきたいこと、

本日行く利用者の共有事項を、一人で判断しないように、

みんなに共有して意見をもらうようにしています。

 

厳密に、全員の利用者さんに対してできているかというと、そうではないですけど、

難病の方やケアの量が多い方は、どうしても一人では抱え込めないので、

訪問を担当しない看護師だったとしても、意見するようにしています。

黒沢さん

一人で行く現場なので、一人で持ち帰って、一人で考えなくてはいけない状況を作らない。

 

朝の時間は、看護の中で大事な時間になりつつあると感じていて、

みんなで共有して、みんなで利用者さんのことを知っている、

会ったことがなくても、どういう感じで、どういう援助が行われているか、耳にしていて、

相談を受けられる状態にはしています。

一和多

未経験でも、お互いに相談して高め合える環境があるのが良いですね。

 

こちらの事業所は、特にどういう方のと相性が良いですか?

黒沢さん

「看護とは」というこだわりがない人のほうが、

やりがいを感じやすいのかな、っていう体制の事業所ですね。

 

わからなければ、聞ける、みんなで考えられる。

それがしやすい事業所だと思います。

 

未経験・経験問わず、人と話す、対話を大切にする、

ということが好きな方が合うのかな、って思っております。

黒沢さん

あとは、サブスペシャルじゃないですけど、

自分の大事にしているものを持っている方、

それを続けて行ける方、両立したいと思っている方は、

会社としても応援したいと思っています。

一和多

サブスペシャル?

黒沢さん

はい。

 

例えば、女性の看護師と、男性のセラピストで、それぞれ臨床美術をやっています。

 

一人は、いま学校に通いながら、私たちと一緒に働いていて、

男性のセラピストは、もうその資格をもっていて、個人的にソーシャルな活動をしていますね。

 

それで、活動するときの場として、弊社で運営をしているカフェを使ったりもします。

黒沢さん

会社の理念として、

「いまの幸せをつくる」

というのがあるので、

スタッフには、看護師という専門職以前に、

1人の人間として幸せになっていくための、様々な働き方を提供できたらと考えています。

病院で感じた違和感がきっかけの訪問看護

一和多

黒沢さんのご経歴について、教えて頂けますか?

黒沢さん

はい。

 

東京生まれ東京育ちで、看護大学の卒業後は、総合病院の外科に7年間勤めました。

 

主にガンの方。化学療法室の専任看護師になって、2年間、化学療法室に勤務させてもらいました。

黒沢さん

その後、看護師になったからには、

一度は「災害」や「救急」の部分にもたずさわりたい、

という想いが漠然とあり、病院を変えて、救命救急のほうに進みました。 

 

施設がもともと災害に強いところだったので、災害派遣はあったのですが、

たまたま出番が回ってこなかったので、3.11のときも熊本のときも、病院で患者さんを受ける側で、仲間たちが現場に行っていました。

 

そこで、7年間救命救急やドクターカーに乗って、出動させていただきました。

一和多

がん看護から救急を経験されて、その後、なぜ在宅へ??

黒沢さん

救急の現場を経験する中で、

「救急車が多すぎる」

「救急要請が多すぎる」

ことを、はじめて痛感をしたんですよね。

 

社会問題にもなっていると思うんですけど、実際現場が疲弊してるんですよね。

 

適切なところに人員や物が配置されているべきなのに、そうじゃないところ時間を割かなくてならず…。

黒沢さん

やっぱり、病院の中にいると、そういった活動を是正することはできないと感じたので

望まない救急要請だったり、望まない治療を是正したり、適正化する活動ができないかと思っていました。

 

病院の中にいると、不満だけなので、やっぱり

看護師のちからを、地域側から発揮できる仕事をしたいな

い、訪問看護ステーションに転職したという経緯ですね。

一和多

救命の現場では、特に難しい判断に直面すること多いかと思うのですが、

患者さんやご家族からすると、そのような場面に直面してからの意思決定は、難しいですよね…。

黒沢さん

おっしゃる通りですね…。

 

特に印象的だったのが、難病の方で延命治療望んでないのに、その時の家族の対応で、救命対応になってしまって運ばれてきてしまった方ですね。

延命治療をされて、心臓は動き始めたけど、24時間以内に亡くなってしまったんです。

 

そういった場合、亡くなる瞬間に立ち会っていないと、法律上【検死】になってしまうんですね。

黒沢さん

やはり、検死と言うと皆さん驚かれるので、

「たぶん一週間くらい警察から帰ってきません」

と案内をしたり

「解剖されちゃうんですか?」

といった質問を受けたり…。

 

霊安室の前で、そういう話をしながら、本人の意思決定や最期の過ごし方のコンセンサスを、ご家族でとっていくことは、本当に大事だなと考えるようになりましたね。

一和多

そこでつかわれている社会資源を、より必要とする他の方につかうことができますしね。

黒沢さん

そうですね…。

 

例えば、1人の救急搬送で救急隊が3人運ばれてきて、医師と2人の看護師とってなったときに、その2時間の間に10人以上の医療従事者が関わっているじゃないですか? 

 

かたや、事故が起きて本当に必要な人運ばれたときに、

その1件の救急車がないだけで、その人員だったり、物資だったりが、本来そっちに投入されるはずなのに。

黒沢さん

口に出してしまえば、簡単なことなのですが、

実際の現場では、それが当たり前に、しかも立て続けに起こっています。

 

それで、

「救命の仕事を外からでもサポートできるように」

「夜の救急車を1件でも減らせるように」

という想いで、病院の外に出てきました。

まさかのVRを取り入れた事例

一和多

黒沢さんが訪問看護をしていく中で、印象的だった利用者さんのエピソードはありますか?

黒沢さん

現在も介入中の方なのですが、86歳で難病の女性の利用者さんですかね。

 

もともと福岡ご出身で、福岡で育って、福岡から出たことがない方なんですよ。

 

旦那さんは、認知症が強くなって施設に入られていて、

現在は、東京に暮らす次男さんと一緒に暮らすために、こちら引っ越しをされた方なんです。

黒沢さん

すごく地元への愛着が強い方で、故郷のお話をすごく嬉しそうに話されていて。

 

愛着のない東京の話をしていても、

「この間、大きなお祭りあったんですけど、どうですか?」

って、薄っぺらい会話になってしまうし、

本人の東京での暮らしへの意欲低下が著しいことに悩んでいました。

黒沢さん

それで、細かい首の動きだったり、手の動きだったりに繋がるもの、外出に繋げていくものはないか、と考えたに、

VRはどうか?」

という話になったですね。

一和多

VR…!?

黒沢さん

そう。(笑) 

 

生まれ育った故郷にニーズが高いと感じたのですが、

テレビとかビデオで、故郷の景色やお祭りを見て頂いても、全然現実味がなくて、お話をして終わりって感じでした。

 

そこで、故郷を見渡しながら、家の中を歩けたらどうかなと。

一和多

VRの機材って、いくらくらいかかるのですか?

黒沢さん

それが、ダンボールとiPhoneで、簡単にVRの環境をつくれる器材が売っていたんですね。

だから費用的な負担は、小さかったんです。

黒沢さん

ご本人に提案したところ、やってみるとおっしゃるので、

iphoneの『Google Maps』で故郷の景色を映して、

「右になにが見えますか?」

「上に何がありますか?」

「左は?」

みたいな感じで誘導をしたら、

 

嬉しそうに

「あれが家でね」

「あの景色は◯◯でね」

とお話をされて。

 

私たちは

「そんなに首が動くんだって!」

って驚いちゃって(笑)。

黒沢さん

可動域が無意識の内に上がるといいますか、拡大するっていうのは、ひとつの大きな発見でした。

 

あとは、これをきっかけに家の外に出て、外の景色に触れていくことに繋がれば良いな、と思っていますね。

一和多

リスクも少なそうですし、何よりあるもので簡単にできる点が、素晴らしいですね!

 

その人が生きるモチベーションを整理して、より良く暮らしていくためのお手伝いをしていくという意味で、非常にいいエピソードだなって。

黒沢さん

ありがとうございます。

 

なんか、やっぱりVRとかテクノロジーは進歩しているのに、

現場は取り入れるのが難しいって思っているんだったら、

そこはどうにか融合していきたいとは思っています。

 

今後リハビリは、絶対にVRとか取り入れていく時代になると思うので。

黒沢さん

昔ながらのやり方を踏襲するだけではなく、ニーズに合わせて新しい手法を乗せていくことって大切だと考えています。 

 

もちろん、リスクも考えながら、影響の出ない範囲でやる形ですけどね。

事業所としては、進めていきたいです。

 

年齢の若い職員が多いというのは、進める上で一つのメリットだと思います。

地域の役割としての訪問看護、そして訪看のイメージを変えていきたい

一和多

最後に、在宅の現場で働いていくことを検討されている方に向けたメッセージをお願いします。

黒沢さん

看護師という職業を考えたときに、病院がメジャーで、

訪問看護ステーションは病院を辞めたあとに行く場所、片手間でできるものと考えている方もいると思います。

 

そうではなく、うちは訪問看護ステーションとして、地域での役割を担っていて、

そこにしっかりアプローチできる、素晴らしい看護師のいる施設のひとつだと思っています。

 

そういう意味でも、私たちで、訪問看護は片手間というイメージをぶっ壊していく必要がありますし、

訪問看護には、病院にはないやりがいがある

ということを知ってもらいたいと思います。

一和多

病院と在宅で、それぞれの役割分担ですものね。

 

働く人も、それぞれの看護観に合わせて、職場を選んでいけると良いですね。

黒沢さん

そうですね。

 

やっぱり、私が救急を経験して感じたことは、看ることです。

 

人を看るということに関しては、病院か、家で生活している方を看るかは、大差がないというか。

 

看る視点は違うかって言ったら、全然違わない。

 

ひどい生活難なのか、急性期のかたなのか、その違いなだけで、決して視点は変わらないので、

こういうことも含めて、私たちのステーションとして、教育を含めて伝えていくスタイルをとっていきたいな、って思っています。

一和多

がん看護をみられて、救命をみられて、今回は在宅。 

黒沢さんご自身は、どこが一番合っていたと思いますか?

黒沢さん

がん患者さんと関わっていたときは、すごい精神力を使ったなって思ってたんですよね。

人との関わりの中で。

 

救急のときは、フィジカルをかなり削られたなって。

 

やっぱり、病院にいたときはどうしても、他人事なんですよね。

近づくためにすごく精神力を使ったりとか、コミットするためにすごく体を使ったり。

黒沢さん

いまの訪問看護のところでは、地域ということもあるんですけど、

心も体も、自分事として捉えながら、一緒に場面場面で関われるような感覚になってきましたね。 

 

自分も、人としてというか、人間として、どういう風に相手の生活を尊重して、看護師として関われるかということを考えるようになりました。

一和多

より患者さん・利用者さんに近い目線で、看護ができるようになった感じですか

黒沢さん

そうですね。

 

目線が近づくということもありますし、医療者と患者という壁がなくなった気分で働けているなって感じです。 

 

看護師になって、いまが一番楽しく働けていると日々感じます。

一和多

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

「府中」駅前の、けやき並木通りをぬけた先の住宅街に事業所を構える、LIC訪問看護リハビリステーション

 

オシャレなデザイナーズの一軒家を利用したこちらの職場は、

彼ら独特の感性やこだわりが各所に散りばめられた、不思議と温かみのある空間となっております。

 

そこで働くスタッフには、〈LIC=Life Is Colorful〉というステーション名に込められた

「多様な価値観を尊重していきたい」

という想いの通り、様々な活動をされている方が多く、

新しいことに挑戦をしていくことに前向きな、非常に風通しの良い職場かと感じました。

 

なお、取材写真をみて頂ければ分かる通り、現在は(意図せず)男性比率の高い職場となっており、

今後は女性の採用にも力を入れていきたいそうですよ!笑

取材・文章:一和多義隆

事業所情報

事業所名 LIC訪問看護リハビリステーション
運営会社 株式会社シンクハピネス
所在地 東京都府中市清水が丘3-29-5 トラットリアK&M1F ※2020年10月に左記住所へ移転済
最寄り駅 京王線「多磨霊園」駅 徒歩2分
在籍人数
従業員の平均年齢

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