緩和ケアとユーモアと

インタビュー先の事業所とご担当者様

石川 麗子さん 所長

街のイスキア訪問看護ステーション

東京都目黒区

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バックパッカー経験を持つ異色の緩和ケア認定看護師。彼女が仏教系・キリスト教系の緩和ケア病棟、そして訪問看護の現場で見てきた、ユーモアある終末期の過ごし方とは?

目黒区で緩和ケア

一和多

本日は、中目黒駅で、街のイスキア訪問介護ステーションを立ち上げられた、緩和ケア認定看護師の石川さんにお話を伺います。

 

よろしくお願いします。

石川さん

よろしくお願いします。

一和多

設立されて3年目とのことですが、なぜ中目黒に事業所を立ち上げられたのでしょうか?

石川さん

家が目黒だからというのが一番の理由ですね。

 

あと、人は知っている場所に親近感を持ちやすいらしいんですよ。「◯◯小学校の近く」というように、想像しやすい場所が良いみたいで。

 

通りに面しているところで、分かりやすい場所を探していたんです。嫁いで来て、目黒が好きっていうのもありますね(笑)

一和多

地域的にも裕福な方が多いイメージですが、実際どうですか?

石川さん

エリア的にはやっぱり裕福な方が多いんですけど、生活保護の方のもいますし、他の地域と同じように開きはあると思います。

 

60分丸々見られるとお金がかかるからって30分に留めてほしいという方もいれば、いくらかかっても構わないから、ちゃんと見てほしいって方もいて。

 

開きがあっても、お金が無くて訪問が受けられないという方がいないので、仕事はしやすいですし、経済面では他のエリアよりはいいのかなーって思ったりはします。

プラスアルファを大切に

一和多

イスキアさんの訪問看護の特徴を伺ってもよろしいですか?

石川さん

イメージとしては、キュア+ヒーリングみたいな。

医療の絶対的な介入は必要なんですけど、+アルファのケアを大切にしています。

 

私自身もマッサージの勉強をしているんですけど、スタッフみんなでマッサージを覚えたり、アロマ利用してみたり。スタッフのなかには、利用者さんのところにウクレレ持参して歌ってあげている方もいます。

石川さん

ただ血圧測って状態観察するだけじゃなくて、その人が喜んで、その人が一番してもらって気持ち良いケア提供することで、利用者さんと信頼関係を築けると思っているので、そこを大事にしています。

 

例えば、一人暮らしの利用者さんのところで、服薬管理のために、お薬カレンダーのセットをするとします。バイタルサインのチェックとそれだけなら、すぐ終わるんですけど、そこで残りの時間をどう利用者さんと過ごそうか考えることですね。より気持ち良いことや喜んでもらえることを大事にしてプラスαのケアをして欲しいとスタッフにも話しています。

 

あとは、緩和ケアですね。緩和ケアはずっとやってきたので。

一和多

緩和ケア病棟の経歴が長いと、訪問でも医療的な行為に寄る印象が強いもあるのですが、マッサージやアロマといった『プラスα』の部分が大事だと、石川さん自身はどこで意識を持つようになりましたか?

石川さん

緩和ケアを受ける人っていうのは時間が限られていて、治療はもう功を奏さないと医師からの宣告を受け、医者や医療に見放されたように考え、傷ついていている人も多いです。体だけでなく、精神的にもスピリリチュアルな部分にも痛みを抱えていられます。

 

いろんなところに痛みを抱えていて、病院にあんまり行きたくなかったのに来たっていう人もいらっしゃいます。

 

その中で少しでも、幸せを感じていただきたいなって思うと、QOLを大事にしたい。私はQOLというのは、笑顔が指標かなと思うんですね。

 

緩和の先生もよく「ユーモアを大事にしなさい」って言っているんです。

 

というのも、ユーモアの語源って「にもかかわらず笑える」(※)ということで、困難の中でも笑えるかっていうところが鍵ってだと思うんですね。

※ドイツ語のユーモアの定義は、「ユーモアとは、にもかかわらず笑うこと(Humor ist,wenn man trotzdem lacht)」だと言われています。

石川さん

テレビドラマみたいに最後の命を振り絞ってエベレスト登るとかは必要ないと思うんです。「普通にやってることを普通にやりたい」というのが患者さんの願いだと病棟で働いている内に気づいて、それを叶えようと思うようになりました。

 

病院時代から「その人の望む普通の生活をどうやったら支えられるか」を1番の基本にしています。それは在宅看護でも同じかなって思いますね。

海外で触れた経験と緩和ケアが結びつく

一和多

緩和ケアの病棟から在宅に行くきっかけは、なんだったのでしょう?

石川さん

緩和ケア病棟で働いているときに経験を積ませていただきました。その時は、スタッフにも恵まれて、思い出すだけでも大好きな仲間と仕事ができたことが誇らしかったです。すごく良いチームケアができていて、自分もこういう素晴らしいチームを築いていきたいと漠然と思っていました。

 

ただ、恵まれた環境の中で、私たちにとっては良い看取りが出来たなって思っていても、遺族会で「家につれて帰ればよかった」とか言われちゃうんですね。私たちが良いと思っていることと家族が思っていることは違って、そこをどうにかできないかという気持ちを持つようになりました。

そこで、徐々に家で看たいという気持ちが高まっていきましたね。

一和多

その中でも、訪問看護に踏み出すきっかけはありましたか?

石川さん

一番大きかったのは、患者さんの自殺でした。

その時に自分が一生懸命やってきた看護は間違っていたのかなって思って。その人らしさを支えていくのに、病院では限界があるのかなと。自分にとって大きなグリーフでした。

とても大きな痛みで、みんなですごく落ち込んで、毎日泣きながら励まし合っていました。

それが大きかったですね。

一和多

その後は、どのようにして在宅看護の道へ?

石川さん

在宅に入るまではまだ色々とあるんですよ(笑)。

 

最初の病院を辞めたあとは、私、バックパッカーしてたんですね。深夜特急の沢木耕太郎さんに憧れて…。

お金を100万円貯めて、大阪まで新幹線、大阪から上海に船で渡って、9ヶ月旅をしてたんですよ。そのときに スペインまで行くのを目標にしてたんですけど、途中のインドでおわっちゃったんです。

石川さん

その時に仏教っていいなって思って、自分を苦しめているのは自分なんだなとか、執着や渇望が自分を苦しめているんだなとか、そういうことをそのインドで瞑想して一つ悟るというか…。

若い頃って辛いと言うか…、うまくいかないじゃないですか!20代って!(笑)

 

それで日本に仏教系の緩和ケア病棟があるのを知って、 お坊さんにもっと学びたいし、看護も学べて、1番やりたかった緩和ケア病棟にも行けるって思って、そこに決めました。 死ぬ時に目に見えないものを信じる現場を目の当たりにして、医療だけではその人を癒すことにできないんじゃないのかなって思ったんです。

一和多

実際に行ってみて、どうでしたか?

石川さん

新潟県の病院だったのですが、院内に仏堂があって、お釈迦様が安置されていてそこで朝の申し送りの前にお勤めするんですよ。

ボランティアのお坊さんがやってくれるんですけど、いらっしゃらないときは、「私がやらせていただきます」って言って「観自在菩薩・・・」ってお経をあげてお焼香して、 それから夜の申し送りを聴いて、仕事をはじめていました。

 

亡くなったあとは夜中でも特別浴槽に入れて綺麗にしたあと、湯灌のような感じですね。その後、仏堂にベッドごとお連れして、やっぱりお線香をおあげして、先生から一言、看護師から一言、家族が一言でお別れ会をするんですね。新潟県内のボランティアのお坊さんが夜間オンコールで、待機しており(笑)夜中でも駆けつけてくれるんです。doingよりbeing、共にいるってことを徹底的にそこで学ばせてもらいました。

石川さん

その後、今度はクリスチャンってどうなのかな?っていう単純な好奇心があって。

キリスト教系の緩和ケア病棟に転職するんですよ。

雪国から都会に出たいっていうのもあったんですけど…(笑)

石川さん

クリスチャンも、「その人らしく生活をできるように支えること、beingを大切にすること」についての基本は同じでした。私がクリスチャンの病院で良いと思ったのは、牧師の先生がよく賛美歌を歌っていたことです。亡くなる前にできることとして歌があって、「歌でも歌いましょうか」って意識が落ちてきている時に歌うんです。

一緒にすること、何かできることがあるよねっていうものを学べたのはすごく良かったですね。

一和多

仏教とキリスト教を経験して、感じたことは?

石川さん

仏教とキリスト教でどう違うかと言われたら、自分の中でもまとまってはいないんですが、何かを信じている人は、亡くなる時も後にも楽そうにみえました。大いなる存在に身を委ねることができるというのがあるのかもしれないですね。

石川さん

クリスチャンだと亡くなったあとすぐお祈りをするんですよ。

 

最後に働いてたホスピス病棟でも患者さんが亡くなる時に、ご家族がクリスチャンだと、牧師さんとか神父さんとかを呼んでいて、お祈りをしてあげるんです。死んだらちゃんとイエス様が愛する自分の家族を迎えに来て、彼の元へ連れてってくれるんだって安心感があるんですね。

 

もちろん、亡くなって寂しいんだけれども、もうイエス様にもお任せしますって、私の愛する誰々さんをどうぞお守りくださいってお祈りして、大いなる存在を信じていることで、そんなに苦しそうに見えないんですよね。

訪問看護は一つひとつが心に残る

一和多

これまで見て来られてた中で、印象深い方は?

石川さん

90歳の認知症の方ですね。娘さんが60代だったかな。

肺炎で入院されていて、ちょうど退院してご自宅に帰ってきたんです。

高齢だったこともあって、また何かあったら病院に搬送するという話だったんですけど、娘さんに痰の吸引等を細やかに教えていたら、家で看取ることを決めたんですね。

石川さん

私達がサポートで入っていたのですが、当時認知症にアロマが効くってテレビでやったこともあって、たまたまご自宅にあったアロマがあったので試してみたんです。

訪問したら、その時に見合った香りをティッシュ垂らしておいたり。

そのアロマがご本人だけでなくて、娘さんにとっても良かったみたいで、すごく気持ちが落ち着いたようでした。今まで話しづらかったご兄弟とも話ができるようになって、お母さんが亡くなった後の洋服とかキャンドルとか、すこしずつ準備をはじめるようになりました。それで、きれいにお看取りができたんです。

石川さん

亡くなられた時にすごく綺麗な夕日が部屋に差し込んできて、「お母さんが最後にそれを見せてくれたんだわ」って娘さんが話をしてくれたのが印象に残っています。

石川さん

今でもその娘さんは、散歩の途中でうちに寄ってくれたり、うちの勉強会にも来てくれるんです。

 

病院だと亡くなったら、ご家族との関係も終わって、話をする場もないと思うんですが、うちでは3回まで遺族訪問をやっています

その方のところにも訪問していて、「母はこれが好きだったね」とか、亡くなった後も話をしていきます。私は、うちで働くスタッフにも良いことだと思っていて、医療者のお別れの儀式も大事だと感じています

石川さん

やっぱり在宅の看取りは、どれも心に残っていて、みんなそれぞれ違う景色があると思います。

病院だといつも同じ白い部屋の白い布団のひとりを見送っている。印象に残らないわけではないけど、在宅だと一つひとつが心に残るなって思います。

工夫しながらしっかり向き合える人が向いている?

一和多

こういうタイプの人が(訪問看護に)合うな、っていうイメージはありますか?

石川さん

基本看護が好きな人は、良いんじゃないかと思いますね。

 

私は病院でも緩和ケアって看護の基本だなと思っています。

やっぱり他の病棟だと忙しすぎちゃって、検査の送り出しして、輸血を繋いで、何時に点滴を変えてって、そのやらなくちゃいけないことに追われてその人が悩んでることや困ってることを話すことができず、とにかくやるしかないんですよ。

石川さん

その点、緩和ケアだとその人がやってほしいことを、その人へのやり方でできることがあったりして、訪問看護も似ていて60分をどういう風な看護をするのかが鍵だと思うんです。

 

だから、ひとりひとりに向き合うのが嫌いで、ルーチンワークで淡々とやってくのが好きな人にとっては、ちょっと辛い仕事になるのかなと思います。

一和多

利用者さんのことを深く考えて、深い関係性を築いていけることに喜びを見出だせる人が向いてるという感じですかね?

石川さん

そうですね。

いま(この取材時に)ちょうど訪問の利用者さんは、水曜日を楽しみにしていて、「明日看護師さんが来るんですよ」ってデイサービスで言って回っていて、少女みたいにかわいらく待っててくれるんですよ。

彼女は一人暮らしで結婚もしておらず子供もいないんですけど、それでもひとり暮らしは寂しくないって言ってくれているんです。

自分を心配してくれて、困ったときには助けてくれる人がいることを彼女が感じてるから、一人暮らしも寂しくないって言える人は、寂しい方とは全然心持ちが違うのかなって思います。

 

石川さん

だから、その人のところに行って、やって来なくてはならない一通りのことをしたら、何をして欲しいか聞ききます。足浴を希望されて、丁寧に洗ってあげると、ご本人は喜ぶし、私たちも足の病変など看れるので、自分流でいいので取り入れていってほしいですね。

一和多

自分のできる幅の広さが在宅の楽しさでもありますね。 

そこに、気持ちいいことが出来る手を持っていると、さらにコミュニケーションがしやすくなるので、やっぱり『プラスα』があると良いですよね。

一和多

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

都内の大人気スポット、東横線「中目黒」「祐天寺」の、中間ほどの位置に事業所を構える、街のイスキア訪問看護ステーション。

 

代表所長をされる石川さんは、そのキャラクターも経歴も、非常に奔放かつユニークなものでした。

 

しかし、明るくひょうひょうとした語り口の裏緩和ケアの現場にて、様々な方の死に向き合う中で感じた苦悩や葛藤を、

異文化や宗教などの多様な価値観を取り込みながら、乗り越えていかれた姿が垣間見えました

 

そんな石川さんと一緒になって自由な気持ちと、丁寧な仕事、そしてユーモアを持って働いていける素敵な職場だと思います

一和多義隆

事業所情報

事業所名 街のイスキア訪問看護ステーション
運営会社 一般社団法人街のイスキア
所在地 東京都目黒区中目黒5-1-19
最寄り駅 東急東横線「中目黒」「祐天寺」駅 徒歩15分
在籍人数 7名(看護師:常勤3名・非常勤4名)
従業員の平均年齢 40歳前後
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