「想い」を「持続」させる
環境づくり

インタビュー先の事業所とご担当者様

野島 あけみさん 副代表

在宅療養支援ステーション 楓の風

東京都町田市

「想い」だけでは続かない!? 看護師が「経営学」を学ぼうと思った理由!

一和多

本日は、東京~神奈川エリアで訪問看護・デイサービスを中心とした在宅療養支援を展開する『株式会社 楓の風』で、在宅ホスピス事業部の責任者をされている、野島さんにインタビューをさせて頂きます

野島さん

よろしくお願い致します。

一和多

現在では、計17事業所(2017年6月現在)で訪問看護ステーションを直営展開されている『楓の風』ですが、訪問看護サービス自体は、2007年から開始をされているのですね。

野島さん

はい。

 

『楓の風』は、2001年に代表の小室が立ち上げた、特定非営利法人からスタートをして、デイサービスの運営をしておりました。

 

その後、事業拡大に応じて、法人格も株式会社へと変え、現在では、同グループでの医療法人の設立もしています。

一和多

役員の方々のご経歴をみると、野島さんを含めて、MBA(※)ホルダーが多いですね。

 

※MBA=Master of Business Administrationの略。

(経営学の修士課程修了者)

野島さん

そうですね。

 

役員の中には、MBAでの大学院をキッカケとして、繋がったメンバーもいます。

一和多

看護師である野島さんは、なぜMBAを取ろうと思われたのですか??

野島さん

私を含め、楓の風の経営者は、介護や医療の実践者であり、現場に対する「想い」はすごく強いです。

 

ただ、その現場を「持続」させていくためには、経営的な勉強が必要だ、と感じたことがキッカケです。

野島さん

医療・介護の人って、ビジネスやお金を稼ぐことへのアレルギーってあるじゃないですか?

 

人の命を救うことと同様に、しっかりとビジネスにしていくことも大切で、それが未来を創っていくことに繋がると、経営の勉強をすることで考えられるようになりました。

一和多

在宅・訪問看護の業界が長い方ですと、それこそ利益度外視で働かれてきた方も多いですね。

野島さん

私は、介護保険の開始以前から訪問看護をしているのですが、当時はそのような方ばかりでしたよ。

 

彼女たちの情熱があったからこそ、現在の訪問看護に繋がっていることは間違いありません。

 

ただ一方で、それは訪問看護に「継続性」を持たせる考え方ではないかと思っています。

働く環境への投資が重要!! 働くお母さんが子どもに自慢したくなる職場!

一和多

『楓の風』での、訪問看護サービスの特徴を教えてもらえますか?

野島さん

まず、『在宅ホスピスケア』に特化していることは、大きな特徴の1つです。

 

利用者さんには、ガン末期の方が多いです。

一和多

なぜ、ホスピスケアに特化をしようと??

野島さん

最期まで堂々と自分の人生を生きることができる社会を望んでいるからです。

 

いまって病気になると、

 

「ごめんなさいね、迷惑をかけちゃって…」

 

という空気があるじゃないですか?

 

それは違うのではないか、と私は思っています。

野島さん

その他の理由としては、『楓の風』は、バックに大きな病院や大企業がついているわけではない、ってこともあります。

 

小さな組織からスタートしているので、「オールマイティーに何でもこなせる」余力は無かった。

 

「狭く」「深く」、自分たちのやれることを追求していった結果でもあります。

一和多

唐突なのですが、楓の風のユニフォームって、カッコ良いですよね!

野島さん

ありがとうございます(笑)。

 

ユニフォームには、お金をかけていますので。

野島さん

うちは、働く環境を整えることへの投資はしっかりとしています。

 

エリアにもよるのですが、常勤看護師さんには、1人につき車1台を完全貸与しますので、通勤や夜間オンコール時の不便はないですよ。

一和多

1人につき車1台の完全貸与をしている事業所は、他になかなか聞かないですね…。

 

なかには、「訪問車の台数が足りないので、自分の車で訪問しています」といった話も耳にするくらいですので。

野島さん

そうだと思います。

 

あと、「いかに効率的に働くか」といった点も意識をしています。

 

iPadを全員に貸与して、電子カルテで情報共有をしていますし、全事業所を繋げるテレビ会議システムも導入しました。

 

これからも、ICTの活用による効率化は、可能な限り進めていくつもりです。

一和多

なるほど…。

 

ちなみに、ユニフォームにお金をかける理由は何故?

野島さん

働くスタッフたちが、

 

「これがお母さんの働いている姿で、これがお母さんの職場なのよ!」

 

と、自慢できる環境にしたいじゃないですか(笑)。

野島さん

大病院の訪問看護ステーションで働いていたスタッフの中にも、

 

「こんなに働きやすい環境を整えてくれる職場はない」

 

と言う人もいます。

一和多

そのような配慮をしてもらえるのであれば、現場のスタッフも、安心して業務に集中できますね!

野島さん

うちは、ホスピスケアに特化していることもあって、決して楽な職場ではないですし、大変な状況に直面することも必ずあります。

 

各スタッフが、自分の看護に集中できる環境を用意することが、会社の努めだと考えていますね。

訪問看護では敵わない!? 訪問看護師がデイサービスをはじめようと思った理由

一和多

野島さんのご経歴について、教えて頂いてもよろしいですか?

野島さん

出身は東京で、看護学校は名古屋の大学を卒業しました。

 

その後、東京に戻り、最初に入職をしたのが、『虎の門病院』でした。

 

配属は虎の門の分院だったのですが、その病院ですごく良い経験をさせて頂きましたね。

一和多

どのような病棟に配属となったのですか?

野島さん

当時としては珍しく、ケアの必要度に応じてユニットが分かれていて、私は内科系の重症病棟で、ガン末期の方や重度の脳血管疾患の方が多かったです。

野島さん

最高の学びがある環境でしたね。

 

あそこでの経験があったからこそ、その後、訪問看護の道に進んでからも、困ることは少なかったと思います。

一和多

病院の後は、どのようにして在宅・訪問看護へ?

野島さん

虎の門病院を退職した後、先輩からの誘いもあり、区役所での保健師をしました。

 

そこで、訪問看護指導として、ご家庭に入っていったのがキッカケだと思います。

 

その後、出産や子育てもあって、しばらく家庭に入っていたのですが、再就職をする時に、保健師時代の印象もあり、在宅で探そうと考えました。

一和多

在宅では、どのような職場に再就職をされたのですか?

野島さん

在宅部門を新設しようとしている、民間の病院に入職しました。

 

病院での訪問看護や、訪問診療の立ち上げなどを経験させて頂きました。

一和多

訪問看護は、立ち上げからの参画だったのですね。

野島さん

はい。

 

ただ、利用者さんがご自宅で生活できるためのサービスを整えていった後、

 

「じゃあ、この人たちがこれだけ元気になった後に、どこに出かければいいの?」

 

と、考えるようになっていきました。

一和多

利用者さんが家の外に出る環境も、整えていく必要がありましたか?

野島さん

そうですね。

 

それで、「デイサービス」に興味を持つようになりました。

 

例えば、看護師が訪問をして、「リハビリ頑張りましょう」と言っても、全く興味を示さなかった方も、デイサービスに通うようになると、

 

「いつも○○さんって、お兄さんが迎えに来るのよね、一緒に行こう行こうってうるさいのよ~!」

 

「明日はこれを着て出ようかしら!」

 

って、嬉しそうに話しはじめるんです。

野島さん

「あぁ、これは訪問看護では敵わないな…」と思いましたね(笑)。

 

それから、「デイサービスを作りたい!」と考えるようになり、ちょうど市が建物を用意したデイサービス施設で、運営先を一般公募での競争入札をしている案件があったので、それに応募をしました。

野島さん

医療依存度の高い人や、人工呼吸器の方を受け入れるデイサービスを運営したい、という提案が認められ、そちらでデイサービスの運営も経験をさせて頂きました。

病院からバトンを渡された「病識のないわがままな患者」の本当の想い

一和多

野島さんにとって、印象深かった利用者さんとのエピソードを教えて頂けますか?

野島さん

大学病院から退院をされた、60歳・男性の方ですかねぇ…。

 

スキルスの胃がんの方だったのですが、退院前のカンファレンスの際、病棟の全看護師が集まったのではないか!? ってほどスタッフが集まってきて、

 

「1週間でいいですから、この人を受けて下さい」

 

と言われました。

一和多

病院側の認識としては、それだけ問題のある方だった?

野島さん

そうですね。

 

病院の医師や看護師からは、

「理解力のない、わがままな人です」

と、それこそ何百回も言われました。

 

ただ、ご自宅に戻られてからの姿を私が見ていて、

「自分なりの生き方」や「やりたいこと」がたくさんある方なのだと、段々とわかっていきました。

野島さん

また、これも退院後にわかったことなのですが、病院の看護師さんからは、

 

「病識がない」

「ガン末期だということがわかっていない」

 

と言われていたのですが、それも違っていました。

 

実は一年前に、全く同じ病気で実のご兄弟が亡くなられていたんですね。

 

だからわかっていたんですよ!

 

自分が来週どうなるか、来月どうなるかも。

 

そのうえで、ご自身なりの選択をされていたのだと思います。

一和多

やはり、病院では表に出せない・汲み取れない、その方の想いってあるんですね…

野島さん

病院は管理されるところですよ。

 

しっかりと管理をされて、良い医療を受けて頂くための場所です。

 

そこでは、「良い患者」にならないと居心地が悪くなってしまうので、患者役割を演じてしまう方も多いのだと思います。

一和多

生活のための場である在宅と、治療のための場である病院とでは、そこで過ごす目的が根本的に違いますね。

野島さん

そうですね。

 

ただ、「家に帰ってまで患者役割から抜け出せない」、「病室が自宅へ変わっただけ」、

といった在宅看護が行われているのではないか、と思う時があるんですね。

 

「病院」から「在宅」、という延長線上のような論じ方ではなく、「全く違うもの」という認識の方が正しいですね。

「与えられる」ではなく「与える」ことでのエンパワーメント

一和多

最後に、訪問看護への転職を検討されている方に向けた、メッセージをお願いします!

野島さん

私は看護師の面接をする時に、

 

「病気に興味がある看護師」

「患者・利用者の生き方や心に興味がある看護師」

 

といった点を気にしながら話をしています。

 

その後者の方、いつまでも「ああでもない…こうでもない……」と、ご利用者のことを考え続けられる看護師の方が、在宅向きなのかなと思っているんです。

一和多

先ほどのお話と同じく、「治療」の場ではなく、「生活」の場、という認識が大切ですね。

野島さん

そうですよね。

 

また、在宅に挑戦をすることに抵抗感のある、自分のスキル・キャリアに自信のない若い方も多いと思うのですが、先ほどのような心持ちがある方であれば経験は大きな問題にはならないと考えています。

 

うちも、新卒2年目くらいで入った男性看護師がいるのですが、彼が看てきた利用者さんは皆さん、「彼を育てたのは自分だ」と思っています。

 

「最初は針も刺せなかったのに」と(笑)。

野島さん

私は、訪問看護師が、「与える」ことでエンパワーメントするのではなく、利用者さんに「与える側になってもらう」ことが、一番のエンパワーメントだと思っています。

一和多

そのような双方向的な関係をつくれることは、在宅ならではの醍醐味ですね!

野島さん

病院で働いていると忘れがちだと思うのですが、そもそも利用者さんには「生きていく力」が備わっているし、ご家族にも「支える力」は確かにあるんです。

 

それを引き出しつつ、障害になるものを取り除いてあげることが、訪問看護師の役割だと思っています。

一和多

本日はありがとうございました。

取材を終えて

一和多

東京都西南部から神奈川県内を中心に、多数の訪問看護ステーションを運営する、『楓の風』グループ

 

訪問看護ステーションを「持続」させるために考えられた様々な思索は、運営や経営のためだけではなく、そこで働くスタッフ一人一人や、その先にいる利用者さんに寄っていくためのものだと感じられます。

 

野島さんは、「うちのステーションは決して楽ではないです。ただ、24時間365日で利用者さんを支える意味を感じられる職場にしたいと思っています」と仰っていました。

 

在宅ホスピスに集中できる環境で、思う存分、利用者さんと向き合っていきたい方は、是非ご検討下さい!

取材・文章:一和多義隆

事業所情報

事業所名 在宅療養支援ステーション 楓の風
運営会社 株式会社 楓の風
所在地 東京都町田市成瀬が丘2-2-2ワタヤビル3F
最寄り駅 横浜線「成瀬」駅 徒歩1分
在籍人数
従業員の平均年齢

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