地域に根ざして、地域を看る
インタビュー先の事業所とご担当者様
有澤 裕子さん 管理者
下馬訪問看護ステーション
東京都世田谷区 / 東急東横線「学芸大学」駅 徒歩9分
東横線「学芸大学」で訪問看護をして12年! 高級住宅街だけど…?
よろしくお願いします。
学芸大学駅から商店街を抜けて来たのですが、立派なお宅がゴロゴロありますね。
そうですね。
うちの訪問メンバーも車庫に止まった車を見て、よくため息をもらしてます(笑)。
(笑)。
やはり裕福なご家庭が多いエリアですか?
そうですね。
この近辺は立派な戸建てが多いのですが、ただ、少し行って三軒茶屋辺りまで行くと大きな団地などもありますよ。
あと、大きなお宅でも、住んでいるのは独居だったり、高齢世帯だったりして、人口としてはそう多くはないエリアなのかな?と個人的には思っています。
そうなのですね!
このエリアで訪問看護をされてお家に入られてきた有澤さんならではの視点ですね。
また後ほど詳しくお伺いをさせて下さい!
「夜勤をやる看護師が一人前」と言われた時代。 訪問看護の道に進んだキッカケは?
有澤さんのご経歴について教えて頂けますか?
私、出身は福井なんです。
看護学校に入学をするので東京に出てきて、それからはずっと東京ですね。
看護学校の卒業後は、病院で10年ほど働いて、出産を機に退職をしました。
それから復職を考えた際、夜勤は難しいので「もう看護師は辞めようかな?」とも思ったんですよ。
「夜勤のない働き方」を探すという選択肢は無かったのですか?
今はどうかわからないのですが、当時ですと、「夜勤をやる看護師が一人前で、そうではない看護師は……」という風潮があったんですよね。
そんな時にたまたま世田谷区で訪問看護指導の職員募集をしていて、そちらへの応募が訪問看護をはじめたキッカケでした。
まだ介護保険が無く訪問看護も浸透をしていない時代に、よく「在宅をやってみよう!」と思いましたね?
それにはちょっとしたご縁があったんですよね。
うちの子どもがよく面倒をみてもらっていたご近所のおばあちゃんがご病気で入院をされたのですが、病院でも打つ手なしという程に状態が悪く、本人の希望もあってご自宅に帰られたんですね。
ただ、ご自宅でもすごく苦しまれていたそうなんです…。
それで、お付き合いがあった関係で、ご家族から私に相談を頂いたのですが、当時の私は在宅に関する情報も経験も無く、何もお手伝いができなくて……。
結果的に、その方は三ヶ月程で亡くなったのですが、「もっと恩返しがしたかったな」という気持ちが強く残ったのだと思います。
その後、まだ小さかった子供をおんぶして、訪問看護指導の職員募集に足を運びました。
訪問看護の大ベテランが語る、介護保険の登場によって変わったものとは?
訪問看護指導を4年ほど経験した頃に、制度が変わって訪問看護ステーションができはじめて、それから訪問看護ステーションに転職をしました。
そこで、訪問看護ステーションの立ち上げと、介護保険制度の創生期を経験させてもらえました。
何でも、有澤さんは最初から管理者をされたとか?
そうなんです。
その当時ですと、訪問看護の経験者なんてほとんどいない時代ですので、「区で訪問看護指導をやっていました」と言ったらすぐに採用で、それから色々あって管理者になりました。
まだ色々と制度が大きく変わったタイミングで、そのうえ管理者とは大変だったでしょうね…。
当時の在宅を経験している人は口を揃えて言うのですが、病院で起こった改革と比べても目じゃないくらい、在宅は毎年変わっていきましたね。
介護保険の登場は特に大変でした……(遠い目)。
(汗)。
ただ、制度が整っていって、訪問看護の現場としては働きやすくなっていったのではないですか?
ん~~~~~~~。
介護保険の登場前は、行政、お医者さん、ヘルパーさんといった、在宅の中での調整を自分たちが行うことが多かったんですね。
それが介護保険になってから「請負」のような形になりました。
「ケアプランの中のこの部分を看護師が担当する」って限定をされる。
それはそれで楽にはなったのだけど、自分で利用者さんの生活を調整して、マネージメントしていく醍醐味は薄くなってしまいましたね…。
なるほど……。
まぁ、前向きに「看護に集中できるようになっていった」と考えれば(笑)。
まぁ、そうね(笑)。
今では、看護以外の視野を入れていくためにも、居宅介護支援事業所の併設もしたんですよ。
世田谷・目黒エリアの利用者さん事情。お金がある人でも最期を過ごしたい場所は…。
こちらのステーションではどのような利用者さんが多いですか?
うちでは医療依存度の高い方の指示書は少ないですね。
どちらかといえば、認知症の独居とか、不安定な高齢者の方とか、在宅サービスが入っていく第一歩として訪問看護を利用される方のケースが多いです。
それはここの地域柄も関係していますか?
あると思いますね。
このエリアの人って元気なうちは都心のより大きな病院に行かれる方が多いです。
それで、ご家族のサポートが大変になってくると、特養ではなく有料老人ホームでも施設に入ってしまう。
やはり経済的な面での選択肢が多いのでしょうね。
在宅でのお看取りも少ないですか?
お看取りはありますよ。
そこは経済的な面とは関係なく、ご本人とご家族の想い。
ほとんどの人は「最期は家にいたい」と言いますね。
ただ、そのためには本人の想いだけではなく、ご家族のその人に対する想いも関係してきますので…。
ママさんも歓迎! 日勤メインでのワークライフバランス重視な働き方!
メンバーはどのような方が多いですか?
子育ても一段落しているような方が多い?
平均年齢は50歳を少し超えていますかね。
子育ても一段落しているようなメンバーが多いです。
おぉ…、メンバー募集はベテランナースを希望されますか?
そんなことはないですよ。
若手や子育て中のママさんナースも歓迎です!
うちは訪問件数も決して多くないので、自分のペースでしっかりと訪問看護に向き合って、働きながら勉強をしていくことができると思います。
訪問がだいたい1日4件くらいなので、記録の時間もしっかり取ることができますし、月末にもそんなに残業が発生することはないですね。
「月間100件まわってください」とは言わないです(笑)。
ワークライフバランスをちゃんと取りたい方や、利用者さんとしっかりと向き合った看護がしたい方に合っていそうな感じですね!
ちなみに働き方としては日勤メインとなってくるんですよね?
そうですね。
常勤の方は、月1回・週末でのオンコール当番をお願いしているくらいですね。
シフトなどの時間もある程度は融通を利かせることができる感じですか?
はい、それも可能なのですが、あまりに部分的すぎる働き方よりも、出勤日はスタートの朝9時から、ある程度まとまった時間で入れる方の方が良いですね。
その方が私もサポートがしやすいので。
メンバー間でのコミュニケーションの時間が確保できることも大切ですよね。
休憩時間に皆さんでお茶を飲んだりする、まったりした空気感が合う方にご検討して頂きたいですね~。
利用者さんの表札が変わるまで。地域に根ざし、地域を看ていくということ。
有澤さんの中で思い出深かった利用者さんとのエピソードを教えて頂けますか?
なかなか選べないですねぇ…。
訪問看護師として800名近くの利用者さんを看てますから……。
訪問看護歴は20年超えてますものね。
やだ、恥ずかしい(笑)。
(笑)。
じゃあ、訪問看護ステーションではなく訪問指導の時、本当に在宅を始めたばかりの頃のお話で。
ご夫婦で生活をされている家庭で、身体に麻痺があるご主人の生活指導をするために月2回ほど訪問をしていました。
入浴介助の時、私がご主人の身体の動かし方に困っていると、奥さまが硬縮して固くなったご主人の手を、魔法のように開けていくんですよ。
それを見て「あ~、すごいな」と感動しちゃって。
奥さまは、ご主人がリハビリのために入院していた時、一緒に付き添ってリハビリを見ていたそうなんですね。
そちらの奥さまには、本当に色々なことを教えていただきましたね。
専門職としてたくさんのことを学んでいる看護師でも、生活の場に入ると利用者さんや利用者さんのご家族から教えて頂くことがあるのですね~。
生活の場には些細なことでも学ぶことや発見がたくさんありますよ。
例えば、さきほどのお風呂の入れ方ひとつにしても、奥さまは「お風呂に入れる時は頭から洗って下さい」と仰るんです。
普通はまずかけ湯をするでしょ?
ただ、かけ湯をすると身体が冷えてしまうので、身体を濡らす前に頭を洗って欲しいということなんですね。
それを言われてから、冬場に自宅で、自分自身やってみたんですよ。
そうしたら、やはりかけ湯をするよりは、頭を先に洗った方が寒くないんだなとわかりました。
すごく些細なことなのですが、そういった一つ一つの気配りや、改善をしていく気持ちを教えて頂けたのは、あのご家庭があったからだなと、本当に感謝しています。
そちらの利用者さん宅にうかがっていたのは20年近く前になるんですよね?
今ではその奥さまはどうなっているのですかね???
今でもよくそこのお宅の前を通りますよ(笑)。
ただ、表札が変わっていたので、おそらく……。
それって、1つのお家の表札が変わるまで、このエリアに根ざして、このエリアで訪問をし続けてるってることですよね?
すごいことだと思いますけどね~!
あ~~~、言われてみるとそうですね(笑)。
私は住まいもここから近いので、よく利用者さんに会ったりもします。
「この家はいつも猫がいたなー」とか「犬がいてよく吠えてたなー」とか、お会いする度に色々なことを思い出します。
まぁ、そんな感じで長くやってきましたけど、私ももう年がきているので…。
そんな(笑)。
全然若々しいじゃないですか!
病院と在宅との違いはここに!看護師として次のステップを模索できる場所!
最後に、病院から訪問看護への転職を検討している方に向けたメッセージをお願いします!
訪問看護って人間ひとりを全部看る感じなので、未経験の科もやらないといけないし、知らない知識もいっぱい出てくるんですよ。
それなので、勉強をし続ける必要があるんですね。
それって裏を返せば、「自分がこれからどの領域を本格的に学んでいこう」と考えるキッカケと出会うには、とても良い仕事なのかなと思っています。
訪問看護の道に進んだからといっても、在宅にとらわれず「看護師として次のステップへ進んでいくための足がかりにする」ってこともできるんです。
自分のやりたいことを探そうという気持ちがあって、やる気がある人にはとても良い環境ですよ。
本日はありがとうございました。
取材を終えて
目黒区と世田谷区の区境に位置する「学芸大学」の商店街を抜けた先、大きな戸建てが立ち並ぶエリアの一角に事業所を構える下馬訪問看護ステーション。
現在は訪問看護激戦区(東京にある全訪問看護ステーションの1割が世田谷に集中しているそう…)となっているこのエリアで、長く訪問看護を続けてこられた有澤さんの言葉の1つ1つには、この土地に根ざし、この土地で看てきた人間だからこそ語れる重みを感じました。
同じエリアで長く訪問を続けて、担当した利用者さんのお家の表札が変わっていることに気づいた時って、どんな気持ちになるものなのですかね…?
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | 下馬訪問看護ステーション |
---|---|
運営会社 | 有限会社ハート・21 |
所在地 | 東京都世田谷区下馬6-23-13 アーバンテラス下馬107 |
最寄り駅 | 東急東横線「学芸大学」駅 徒歩9分 |
在籍人数 | 5名(常勤1名、非常勤4名) |
従業員の平均年齢 | 50歳以上 |
本日は目黒区と世田谷区の境にある『学芸大学』で12年にわたり訪問看護を提供されている、下馬訪問看護ステーションの有澤さんにインタビューをさせて頂きます。
よろしくお願いします!