我思う、ゆえに看護あり
高齢のご利用者との距離感を縮めるための鉄板ネタは『鬼平』!?
よろしくお願いします。
私、喋るの好きなので…長くなってしまったらごめんなさいね(苦笑)。
お手柔らかにお願いします(笑)。
僕、「平蔵」さんという苗字の方にはじめてお会いしたのですが、ご出身はどちらなのですか?
私と私の旦那は、石川県の能登出身です。
能登内でも、あまり見ない名前なんですよね。
ただ、そこまで珍しい名前とも思っていなかったので、関東に出てきてから驚かれることの多さに、逆に驚きました。
電話でのやり取りで、「では明日、平蔵が伺いますね」と案内して、翌日に私が伺うと「あれ? 男性の方は??」と驚かれたり(苦笑)。
そう勘違いされるでしょうね~(笑)。
個人的には、「平蔵」って池波正太郎の『鬼平犯科帳』のイメージが強いです。
ご高齢の方からは本当によく言われます!!
それで、ある時から「この名前を武器にしよう!」と考えるようになって、『鬼平』の映画やドラマを観るようになったんですね。
それからは、この話題は最初に距離感を縮める時の鉄板ネタとして使えるようになりました(笑)。
それは良い共通の話題になりますね~(笑)。
我思う、ゆえに看護あり
早速こちらのステーションについてお伺いをしていきたいと思います!
先程、こちらのステーションに合う人のイメージとして「面白い人」といったことを挙げられていましたが、それはどのような意図で??
ん~~~~、なんていうのか、私は基本的に「自由」が好きなんですね。
個々の「考え」を尊重したい。
なので、自分の「考え」や「主張」がある人が好きなのですが、そういう人って面白い人が多いじゃないですか(笑)。
わかる気がします(笑)。
自由な考えや多様性を大切にしたいといった感じですかね??
そうです!
うちの会社名は『樹林』というのですが、本当は「森」という字を使いたかったんです。
「木を見て森を見ず」ではなく、「森を見て木を見ず」でもない。
どちらも大切にしたい。
目の前の本質を大切にしていれば、細かな方法論はあくまで枝葉であって、
結果的には目指すべき大きな森になっていく。
訪問看護に例えると、「本人がどうありたいか?」が一番大切な幹の部分なんですね。
その部分をしっかりと引き出すことができれば、こちら(医療者)側が多少「大丈夫かな… ?」と心配に思っても、あとはやってみれば良いと思っています。
また、そこでは仮に失敗をしても良いんです。
「考え」があって「思考」があったうえでの失敗は、次に繋がるものなので。
一応、補足的に合いの手を入れさせて頂くと、その「やってみる」とは、主治医の先生やご家族 等も含めた、各所への連携をとったうえで、という前提ですね。
もちろん、そうです。
その確認・調整をとるうえで、仮に「NO」といった返事があるのなら、そこにはまた理由がありますし、ご本人にとっても新しい「考え」に繋がっていきます。
その橋渡しをすることも訪問看護師の仕事ですよね。
よくわかります。
ただ、平蔵さんの仰っる「考える」「やってみる」という姿勢って、厳しい病棟に配属になって怖い先輩がついてしまった若手看護師にとっては、逆立ちしても持てないものだろうな…、と思ってしまいました(汗)。
看護教育には、(残念ですが)そういった一面はありますよね。
せっかく在宅に進む方には、そういった萎縮を取り除くところからスタートしてもらいたいですね。
こちらで常勤として働かれているスタッフさんの中には、(その方が)看護学生の時から目をかけていた方がいるとか??
はい、そうなんです。
最初に会ったのが彼女が20歳くらいの時だったので、もう長い付き合いになるのですが…(笑)。
どのような出逢いだったのですか??
私が非常勤講師として看護学校にいった時の生徒が彼女でした。
私は、○×問題みたいのが嫌いで、試験は全部、自由筆記にしていたんですね。
その答案で1人だけめちゃくちゃ面白い回答をしている子がいて、それが彼女でした。
ちょっと気になるのですが、どんな試験で、どんな回答をされていたのですか?
確か……、
「夏の暑い季節で、老人の脱水を防ぐためにどうするか?」
みたいな問題だったと思います。
彼女の回答内容はよく覚えていないのですが、とにかく発想が自由で、かつ、生活に沿っていたんですね。
看護の教科書に書いてあるようことはどこにもなくて、ただ、その老人の暮らしぶりをリアルにイメージして答えていました。
イラストなんかもたくさん入れて(笑)。
学生の時から、「生活をイメージする力」を持たれていたんですね。
その方は、訪問看護をはじめる前から、なぜそういったことができたんですかね??
生まれ持った才能だと思いますよ。
理論とか理屈抜きで、とにかく発想がすごく自由なんです。
そういったことができる人って、裏を返せば、「考えなくてもできるから考えない」とも言えるんです。
それって再現性がないですよね。
訪問看護師として働く人も、彼女のような人ばかりではないので。
「例え、自分が(良い看護を)できていたとしても、それを言葉にして、評価していかないと、人に伝えることはできないよ」と、しつこく言い続けました。
天才ゆえの……、な感じですね。
そんな感じですね(笑)。
その結果、
先天的に持っていた「感覚」に、「理論」が入るようになっていったんですね。
今では、うちのステーションの教育担当のようなポジションにまで成長をして、他メンバーの教育やサポートまで担ってくれています。
人生を変えた、ひとつの出逢いと、ひとつの投げかけ
ここからは平蔵さんのご経歴について、掘り下げてお伺いをさせて下さい!
ご出身が能登とお伺いをしましたが、その後どのようなキャリアを?
高校卒業までは能登で、看護学校から名古屋に出ました。
看護師資格を取得後はしばらく金沢の病院で働いていましたね。
どのような病棟を?
混合病棟でした。
総合病院ではあったのですが、内科も外科も色々な科が混ざっている病棟でしたね。
あとは、救急も少しいたかな?
その後は、どのようにして関東の方へ?
主人の仕事の兼ね合いです。
病棟で4~5年ほど働いてから結婚をして、東京に出てきて、出産をして。
その時は、看護師を続ける気も特になかったんです。
それは何故??
そのときの私は「自立」していなかったんですよね。
自立……?
はい。
それまでは親に言われるがままに人生を決めてきていて、看護師になった理由も親の勧めによるものでした。
特にしたいことがあった訳でもなく、看護への思い入れがあった訳ではなかったんです。
いまの平蔵さんからは、ちょっと想像もつかない感じですね…(汗)。
東京に出てきて周りに知り合いもいない中で、子育てだけをして段々と飽きてきたんですね。
その時代、ちょうど「女性の社会進出」が注目されている時だったので、私のような人向けの勉強会や講習会みたいなものがたくさん催されていて、それに参加するようになりました。
参加した講座の中に、「訪問看護」に関するものがたまたまあって、そこでの出逢いが私を大きく変えました。
講師をされていた方が、すごく面白い?個性的?な方だったんです。
講座のテーマが「面接の技法」なのに、「宇宙」の話をされるんですよ(笑)。
「訪問看護」の講座で、
テーマが「面接の技法」なのに、「宇宙」!?
そう(笑)。
それで「この人は面白そうだ」と思った私は、個人的にその講師を訪ねていきました。
すると、第一声から
「あなたはどうしたいの?」
と質問をされたんです。
これまで人生の決断を他に委ねてきた私にとって、その質問はすごく衝撃で…。
(自分で)「考える」ということを意識しはじめたのはそこからでした。
「看護」というものについて改めて考え直し、「訪問看護」に興味を持つキッカケもその出逢いでしたね。
どこに、どのような出逢いが転がっているかわからないものですね…(汗)。
本当にそうですね。
それからは、訪問看護での様々な働き方を模索しながら、自分の理想とする訪問看護ができる場をつくりたいと考えて、この訪問看護ステーションと、後にホームホスピスを参考にした家を設立していったという経緯です。
ご家族の望んでいたこと、訪問看護でできたこと、病院ではできないこと
これまで平蔵さんが看てこられてきたご利用者の中で、印象深かった方のエピソードを教えて下さい。
私が『きりんの家』を建てようと考えたキッカケになった方がいます。
60代後半のご夫婦で、ご主人への訪問。
脳腫瘍がある方だったのですが、ストマを作っていて、痰の吸引もしなければいけなくて…、かなり介護度の高い方だったんですね。
主介護者は奥様で、賢い方だったのですが若干の鬱傾向がある方でした。
外の人を家の中に入れることへの抵抗感も強い方だったのですが、
ただ、訪問が入らないと、家での生活は難しい状況だったので、最低限、週2回から訪問が入ることになりました。
ある時、ご主人が肺炎になってしまったのですが、
「ちゃんと吸引をすればほとんど治りますよ」と奥様に案内をして、奥様に吸引の仕方を説明しました。
奥様は説明をうけたことはちゃんと理解をするし、吸引もできるんですね。
介護をする奥様も大変だったと思うのですが、ご主人の肺炎も回復されていきました。
それから奥様も段々と私を信頼してくれるようになって、色々と話をしてくれるようになりました。
「夫が、目で私に痰を取ってと言うの。それで私が吸引をすると、〈気持ち良い〉という顔をするんです」
「平蔵さんが呼吸介助(呼吸リハ)をしている時、夫は本当に気持ちよさそうなの。その時の顔を見てる時が一番幸せなんです」
と嬉しそうに話して頂いて…。
しばらくして、奥様も介護疲れをしてしまったんですね。
以前に病院から案内を受けていた、「レスパイト入院」を使いたいと相談を頂きました。
私も「奥様が休むことも必要だから、数日程度だったら(レスパイトを)使ってもいいんじゃないですか?」とご案内をして……。
いざ、レスパイト入院をすると、受け入れた病院側の医療関係者に驚かれたんですね。
「この状態のご主人を、奥さんが介護していたのですか?」と。
それからレスパイトが伸びていきました。
病院側としては「この状態のご主人をみるのは大変でしょ?」といった判断で。
奥様から私に何度も連絡が入って、
「主人は私に痰を取ってと目で言うんです。けど、ここは病院だし、看護師さんに言っても〈さっき取ったところだから大丈夫ですよ〉と言われるんです。」
「主人が一番好きだった呼吸介助も、ここではしてくれないんです。」
と仰っていました。
レスパイトのはずだった入院がどんどん伸びていき、その間にご主人の顔もどんどん病人の顔になっていきました。
それで、そのまま病院でお亡くなりになりました。
ご自宅ではなく、最期は病院で?
はい…。
私も、病院にご主人の在宅での暮らしぶりや、奥様の希望について掛け合いました。
しかし、返ってきた返事は「ここは病院だから在宅のようにはできない」と言われたんですね。
加えて、「この状態で家に帰すことはできない」と。
確かに、その時は、脳腫瘍が肺転移もしていて、動くことも、コミュニケーションを取ることもできず、目で語りかけることしかできなくなっていました。
その状態で、身体の介助から、吸引から、ストマの交換から、と奥様の負担が大きいことも事実だったんですね。
奥様自身が鬱傾向の方ということも考えると、病院側には「介護疲れ」といった映り方をするのも納得はできますね。
そうなんです。
先方も善意でやっていることは間違いないんです。
ただ、ご本人達が望んでいたことは、介護負担を減らすことではなく、一時的なレスパイトをできる場だったんですね。
その時の私はそれを提供できなかったことが悔しくて…。
それで、一時的な預かりもできる家を建てられたのですね。
いくつになっても人間は変われる。ただ、そのために必要なものは…。
先程の自立の話ですが、
平蔵さんのご主人としては「妻が東京に出てきてから変わってしまった…」と戸惑ったのではないですかね?
それは…、そうですね(笑)。
自立してからの私は、それ以前の私とは考え方が180°変わりましたし、どんどん仕事も楽しくなっていきました。
夫にとっては気の毒なことだと思います(苦笑)。
男の僕としては、どうしても旦那さんの方に感情移入してしまいますね…(苦笑)。
男性からすると、そうですよね(笑)。
だから、私はうちのスタッフにも外部の方にも、
「人間は変われる。変わるキッカケは人との出逢いだよ」
とよく言ってます。
そういった意味では、色々なご利用者とふれ合い、深い関わりをしていく「訪問看護」という仕事には、自分を変える大きなチャンスもあるのかもしれないですね。
そこが訪問看護の魅力のひとつですしね。
本日はありがとうございました。
取材を終えて
京浜東北線と武蔵野線が交差する「南浦和」駅から住宅街を抜けた先に位置する『ケアサービスきりん』。
これまで様々なご縁もありながら長く訪問看護に携わってきた管理者の平蔵さん(名前でないです苗字です!)は、
「考える」ことの大切さ
を繰り返し強調されていました。
通り一遍の看護技術を提供するだけではなく、
(利用者さんに)
「受け入れてもらうためにできる工夫は?」
「これから生活に必要となることは?」
「その方が本当に求めていることは?」…等々、
全ては「考える」ことから始まり、また、自分の考えを周囲に「発信」することが次のステップに繋がります。
言葉にすると簡単なのですが、膨大な業務量を効率的にこなしていくことを求められる病棟の看護師さんにとっては、場合によって苦手な領域なのかも…。
「考える」こと「話し合う」こと、
仕事だけに限らず、日々の生活や人生をも変えうる思考習慣を、平蔵さんから学んでみてはいかがでしょう?
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | ケアサービスきりん |
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運営会社 | 有限会社 在宅ケアサービス 樹林 |
所在地 | 埼玉県さいたま市南区文蔵4-5-6 |
最寄り駅 | 宇都宮線・武蔵野線「南浦和」駅 徒歩11分 |
在籍人数 | 看護師:7名、PT:1名、ケアマネージャー:1名 |
従業員の平均年齢 | 40代半ば ※40~50代のスタッフが在籍 |
ステーション詳細 | » より詳細なステーション情報を見る |
本日は「南浦和」駅で訪問看護ステーション、「与野本町」駅で『きりんの家』を運営する、『きりんのゆめ』の代表理事で、訪問看護の管理者もされている平蔵見子さんにインタビューをさせて頂きます。
よろしくお願い致します!