柔らかさを持って、
タイミングを待つ
訪問マッサージと訪問看護
よろしくお願いします。
こちらの訪問看護ステーションが入っている建物も、一階に同社の訪問マッサージが入っていますね。
「訪問マッサージ」は、具体的にどのようなサービスになりますか??
うちは、医療保険での訪問マッサージがメインですね。
主治医から同意書を頂いた後、マッサージ師の国家資格を有する社員が、ご自宅に訪問をして、マッサージをしながら、筋肉の揉みほぐしをしていきます。
看護師の目線で訪問に入っていて、マッサージの効果は感じられますか??
そうですね!
やはりマッサージが入っていると、筋肉が固まりづらいので、動きの改善に役立っていると実感できますよ。
なるほど!
あと、勝手なイメージですが、特にご高齢者や独居の方にとって、タッチングは精神的な安定に繋がりそうな気もしますね。
それもありますね~!
マッサージの人は男性が多くって、「先生」と呼ばれることが多いんです。
皆さん「先生にやってもらうと本当に身体が軽くって」と、嬉しそうにお話をされますね。
団地の多い松戸市エリアで高齢者の孤独死を防ぐ訪問看護師の役割
早速ですが、こちらのステーションの特徴について、お伺いさせて下さい!
先ほどの話にもあった、訪問マッサージのご利用者が、そのまま訪問看護になることは多いのですか?
そういったケースもありますが、そう多くはないんですよね。
何人だろ?
いま(※2019年2月時点)は、5~10人の間くらいですかね。
そうなんですね~!
では、ご利用者の傾向としては、どのような方が多いですか?
どちらかといえば、慢性期寄りの方が多いです。
終末期の方や、難病系の方は、近くにそういった領域を得意としている事業所さんや施設があるので、
うちへのご依頼は、服薬管理だったり、排便コントロールだったり、おしっこの管の管理だったり…、そういったケースが多いかな?
あとは、このエリアの特徴でもあるのですが、近くに大きな団地があるので、高齢者独居で、団地生活をされている方は多いと思います。
『常盤平団地』ってご存知ですか??
すいません、知らないですね…。
有名な団地なのですか?
結構昔に、高齢者の孤独死でニュースになった団地なんです。
そこにも訪問をしているのですが、やはり高齢者や独居の方の割合は高いのかな、と感じます。
その他にも、松戸自体、団地の多いエリアみたいで、そこで暮らしている方の「高齢独居」や「老老介護」は、多く目にしますね。
医療的ケアとは別に、まさに訪問看護で期待をされている領域ですね。
本当にそう思います。
ご利用者さんによっては、
「ヘルパーは駄目だけど、看護師なら入れてもいい」
という方もいるんです。
看護師が、医療者としての目線を持ちながら、安全に生活をするためのサポートをしたり、ケアマネさん等と連携をしたりすることは、とても大切な役割だと痛感します。
先ほど、事業所の中を拝見していて、和気あいあいとして、雰囲気の良い職場だな~、と思いました。
何だか、皆さん仲良さそうですね(笑)。
ありがとうございます!
うちは、2015年の開設なのですが、今のところ、
トラブル等のネガティブな理由で退職をされた方は1人もいなくって、
ステーションの立ち上げから一緒にやってきたメンバーで、仲良くできていると思いますよ。
それは素晴らしいですね!
看護師さんだけではなく、リハさんや事務さんも、職種の壁なく、一緒に働かれている感じでしたね。
リハの彼は、後から入ったメンバーなのですが、もうリラックスしすぎなくらい馴染んじゃって(笑)。
新しく入った人も受け入れる土壌がある、といった意味で、良いことだと思いますけどね(笑)。
あと、こちらのメンバーには、工藤さんの他にも、訪問看護の管理者経験があるスタッフがいるとか?
そうなんです。
いま大学院に通っている兼ね合いで、非常勤になっているのですが、教育やサポートが私だけでは手が回らない時などは、彼女にも相談ができます。
管理者以外にも、相談できる人が事業所内にいることの安心感は大きいな、と思っています。
管理者経験のある方がお2人もいる事業所は、そう多くないですね。
どういった方なのですか??
物腰も柔らかいですし、相談しやすい雰囲気の方ですよ。
やっと大学院の修士が終わったと思ったら、今度は博士に進むことになったんです。
博士まで! 勤勉な方ですね……!(汗)
本当、すごいですよね(笑)
救急外来、オペ室、大学院、看護教員…、在宅での今に活きる幅広い経験
ここからは、工藤さんご自身の経歴について、お伺いをさせて下さい。
まず、ご出身はどちらなのですか?
生まれは足立区なのですが、その後小さい頃に引っ越して、市川で育ちました。
東京・千葉との境を行ったり来たり、といった感じなのですね~。
看護学校の卒業後は、どのような病院へ?
都立の専門学校で、後に大学での学士を取得しました。
新卒時は、都立の総合病院に入職をして、救急外来に配属をされました。
救急外来は、希望をして??
本当は、ICU希望だったのですが、あぶれました(笑)。
その当時から、「将来は在宅をやりたい」、と思っていたので、まずは急性期で力をつけたいな、と考えていましたね。
失礼ですが、工藤さんのご年代で、「将来は在宅を!」、と考えるって、かなり珍しいですよね……?
はい、かなり珍しいと思います(笑)。
看護学生の時に、バイトにいった病院が、たまたま訪問診療・訪問看護をやっているところで、そこで在宅の現場を体験できたことが、大きかったですね。
まだ、介護保険もなく制度も整っていない時代だったのですが、
「ご利用者とこういった関わりができる働き方って良いな」
と、漠然と感じたのを覚えています。
工藤さんの学生時代ですと、在宅看護学も在宅実習もないですし、学校外のそういった活動がないと、イメージの持ちようがないですものね。
都立病院の後は、どのような経験を?
整形外科メインの混合病棟だったり、オペ室だったり…。
オペ室も?!
これも、何か興味があったんですよね(笑)。
ただ、やってみて、「ちょっと自分には合わないのかな…」と。
その後は、働きながら大学に通って、大学院に進学をしました。
どのような専攻を?
「看護管理教育」でしたね。
管理者として働くうえで、色々と役立ちそうな感じがしますね!
そうですね!
大学院で、腰を据えてしっかりと勉強ができた時間は、非常に貴重な経験でした。
あとは、2年弱ほど勤務した、看護学校での教職の経験も、今に活きているのかな、と思っています。
幅広く、色々なご経験を積んでこられていますが、訪問看護は、いつ頃から始められたのですか??
大学院に通っている時、同じ修士の学生が、訪問看護ステーションを立ち上げるのを手伝った時が、最初でした。
大学院でそのようなご縁もあったのですね~!
ちなみに、どの辺のエリアで訪問看護を?
足立区と台東区の間。
「山谷」あたりの地域でした。
あの……いわゆる………あれな場所で(笑)。
あぁ、ドヤ街的な感じの(笑)。
そうですそうです!
全部が全部ではないのですが、ゴキブリやネズミが出ている、かなり不衛生なお宅への訪問もありました。
その時の経験があったから、今はどんなご家庭に直面しても、動揺せずに働けていると思います(笑)。
貴重な経験が色々とあったのでしょうね(笑)。
それからは、ずっと訪問看護を?
いえ、看護協会で働いたり、病院で教育担当や師長をやったりもしました。
それで、「病院はもういいかな?」と感じて、その後は現在まで、在宅側で働いていますね。
専門職の視点とご利用者の視点のズレ、そしてタイミングの問題
色々なケースをみてきて、「自己決定支援」をすることが在宅の醍醐味でもあり、難しさでもあるな、とよく感じます。
在宅では、病院のように管理を強要することができないので、医療者側からみると決して最善ではないことを、ご利用者さんが選択される場面があるんですね。
病院から在宅に転職をした場合、そこに抵抗感を覚える人は多いでしょうね…。
何か、そういったことを強く感じるケースがあったのですか??
はい。
90代のご夫婦で、奥さまがご主人の主介護者となる、典型的な老老介護のご家庭でした。
私たちは週2回ほどの訪問だったのですが、ヘルパーさんも入っていなくて、胃ろう管理、吸引、拘縮がある方だったので、オムツ交換まで、奥さまが1人でされていたんですね。
それを、90代の奥さまが1人で看るのは、中々にハードですね…。
そうですね………(汗)。
病院や施設という選択肢は、なかったのですか??
最終的には施設でお亡くなりになりました。
ただ、それを受け入れるまでに、時間はかかりましたね…。
奥さまが、「旦那を施設に入れるなんて」、といったお考えが強い方でした。
私たちから見ると、様々なリスクのある方ですし、施設という選択肢を検討しても良いと思っていたのですが、奥さまが断固受け入れなかったんですね。
また、その奥さまは、色々なことへのこだわりが強い方でした。
例えば、看護師の私からすると、
「清潔なものから順番に処理をしていって、オムツ交換は最後にして…」
といった整合性・合理性を考えながら、ケアを組み立てていくのですが、
隣で見ている奥さまから、
「ここはこうしてください、ああしてください」
といったことを、細かく希望されるんですね。
私は、そのご希望に沿いながら、看護を展開していました。
正直、私たちも人間なので、葛藤は感じますし、専門家として譲れない部分もあります。
ただ、それをそのまま奥さまに伝えても、受け入れて頂くことは難しくって…。
こだわりの強い方ですと、そこの折り合いは難しいですね…。
最期は、施設でお亡くなりになったとのことですが、その奥さまは、どこで考えを変えられたのですか??
途中、ご主人が一時的に入院をすることがあって、そこから徐々に、奥さまの考えが変わっていきましたね。
やはりご本人も介護に疲れていましたし、体力的な限界も感じられたのだと思います。
「施設に入れます」といったことを、ご自身で決断されたことは意外でしたが、致し方ないことかとも思いました。
在宅では、色々な方の色々な価値観に向き合っていかないといけないのですが、
こちらの考えを受け入れて頂けないことは当然ありますし、また意思決定をするためのタイミングも、とても重要になると感じます。
ご利用者の状態が変わっていく中で、取り巻く環境やその時々で、考えも変わっていくんですね。
専門家である私たち看護師の考えを押し付けることなく、その方の価値観を柔軟に汲み取りながら、ご自身で意思決定をされることを待つことも、大切なことだと思っています。
千差万別の価値観をもったご利用者と接していくことや、それぞれのご家庭ごとに、経済的・人的資源が異なること、あとはタイミングの問題……。
専門職(看護師)としての葛藤も抱えながら、その時々で受け入れていく柔軟さが求められますね。
そうですね。
そこが、在宅の飽きないところでもあるのですが、大変なところでもあって…。
病院で患者さんを管理することに慣れている方が、在宅に入ってストレスに感じる点だと思います。
逆に言えば、そういった柔らかさがない方は、在宅が合わないのかもしれないですね。
未経験の方は特に、様々な現場を見てまわって欲しい!
訪問看護への転職を検討されている方から、よく頂く質問の1つとして、
「どういう視点で事業所選びをすればよいかわからない」
といったことを聞かれることが多いです。
老人ホームだったり、クリニックだったり、株式会社だったり…、
色々な法人でのステーションを経験されてきた工藤さんからみて、何かアドバイスはございますか?
やはり、一概に「訪問看護」と言っても、組織ごとにその捉え方は、大きく変わるんですよね。
「(訪問看護で)何をしていきたいのか」
「どのような運営をしていきたいのか」
「どういった利用者を受けていきたいのか」
等々、本当にまちまちなので、そこは、
一つ一つ事業所を見て回りながら、検討していくほかないですね。
やはり、複数のステーションをまわった方が良いと思いますか?
そうですね。
訪問看護の経験がない方は、特にそのように思います。
給与や福利厚生といった、条件面の確認とは別に、
事業所のこと、運営のこと、中のスタッフのことを知る機会は、必須ですよね。
ちなみに、こちらのステーションでは、どういった方が合うとお考えですか??
う~~~ん、まず、臨床経験はそんなに気にしないですかね。
人と接することが好きで、在宅に興味があって、という方であれば、限りなくサポートできると思います。
あとは、このエリアに定住されていて、長く勤められる方だと嬉しいです(笑)。
本日はありがとうございました。
取材を終えて
松戸市のちょうど真ん中に位置する「八柱」駅から、左右を街路樹に挟まれた真っ直ぐの道を、ひたすら直進した先に事業所を構える、『てあてリハビリ訪問看護ステーション松戸』。
「訪問看護」事業のスタートが2015年と、まだ新しいステーションではあるのですが、様々な法人での訪問看護ステーションの立ち上げに関わってきた、管理者の工藤さんをはじめ、訪問看護の経験豊富なメンバーが在籍をし、安心して働ける環境となっているかと感じます。
団地で生活をされる高齢者が多い、といったこちらのエリアの特徴もあり、高齢者看護や地域連携について多くを学ぶことができることに加えて、
病院や在宅での臨床に限らず、大学院、看護教員、管理職、立ち上げ…と様々な経験を積んでこられた、工藤さんの近くで働くことは、看護師として再度新しい視点を得る、貴重な機会となるのではないかと思いますよ!
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | てあてリハビリ訪問看護ステーション松戸 |
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運営会社 | 株式会社てあて |
所在地 | 千葉県松戸市常盤平陣屋前4-17-402 |
最寄り駅 | 新京成線「八柱」駅、武蔵野線「新八柱」駅(徒歩8分) |
在籍人数 | 常勤2名・非常勤2名、PT1名、事務員1名 |
従業員の平均年齢 | 30代~50代のスタッフが在 |
ステーション詳細 | » より詳細なステーション情報を見る |
本日は、関東圏で広く訪問マッサージを提供されている、『株式会社てあて』の訪問看護部門で管理者をされている、工藤さんからお話を伺います。
よろしくお願いします!