夫の情熱、妻の葛藤
小田急線「鶴川」駅、駅徒歩1分の好立地に込めた働くスタッフへの想い

最初にお伺いをしようと思っていたことすが、
「○○駅前訪問看護ステーション」
という事業所名、今後、ステーションが拡大をして、事業所の移転を検討する際に「駅前」という縛りがついてきてしまうプレッシャーがありますね(汗)。

そうですよね!
それは私も思いました(笑)。

(笑)。
ステーション名はどういった経緯で決まったのですか??

えーっと、社長が勝手に決めてたんですよね。あはは(笑)。
社長の意図としては、「働くスタッフのことを考えたら駅前の方が良いだろう」、といった点はこだわっていたようです。
あとは、採用時に「駅チカ」の方が検討してもらいやすいかな、と。

通勤するスタッフとしては「駅チカ」の方がありがたいのは間違いないですね。
ちなみに、電車ではなく「車通勤」もOKにしているんですよね??

そうです!
車通勤のことも考えると尚のこと「駅前」にこだわらなくて良いんじゃない?とも思ったのですが、そこは譲ってもらえず(苦笑)。

今後、より大きな事業所を借りないといけなくなったタイミングや、駐車場をたくさん用意しないといけなくなった時が大変ですね…。

そこは社長に頑張ってもらうしかないですね(笑)。

訪問看護ステーションをやりたかったご主人の、まさかの強硬手段!?

では、こちらのステーションについてより詳しくお伺いをさせて下さい!
まず、ご夫婦で訪問看護ステーションを立ち上げられたのはどういった経緯だったのですか?

そもそも、私は訪問看護に対して、当初はあまり乗り気ではなかったんです(苦笑)。

えぇ…?

「看護師」という仕事自体は小さい時から憧れていた職業ですし、看護師になった後も仕事は大好きで楽しかったんですね。
ただ、仕事が好きな分、「(自分は)患者さんとの距離感が近くなりやすい」、とも感じていました。

病院と違い、在宅ってより利用者さんとの関係性も深くなるじゃないですか?
「自分は絶対に仕事を家に持ち帰るようになるな…」という不安があったので、その予防線を敷くためにも、「在宅だけはやめておこう」と考えていました。

仕事と家庭との両立を大切にされたかったのですね。

うち、子どもが4人いるんですね。
子育てに支障のでる働き方はできないな……と(汗)。

4人……、それは家に仕事を持ち帰ったら大変なことになりますね……(汗)。
では、訪問看護ステーションの立ち上げについてはご主人(社長)の意向で??

そうです。
主人はこれまでも、訪問診療クリニックの立ち上げ等、在宅分野で仕事をしてきた人でしたので、「自分の理想とする訪問看護ステーションを経営したい」という想いを持ったのだと思います。
なので、私にも訪問看護を再三しつこく勧めてきて、私はそれに抗っていたんですね。
そうしたらついに強硬手段を……。

強硬手段???

会社を退職してきてしまったんですよ。勝手に。
なので、もう訪問看護ステーションをやるしかない状況を強引につくられしまい…(苦笑)。

すごい行動力というか、思い切りが良いというか…(苦笑)。

さすがに私も腹をくくりました(笑)。
その後は、訪問看護の経験のある友人に相談をしたり、訪問看護や管理者の研修に参加をして勉強をしたりしながら、このステーションを作り上げていったという経緯です。


事業所の様子を見渡していて、「若い方が多いな」といった印象を受けます。
小さなお子さんを子育て中のスタッフも多いと伺ったのですが、そこの年齢層的なところはこだわりがあったのですか??

全くもってたまたま、偶然です(笑)。
面接をして「この人、良いな」と思った人に若い人が続いただけです。
なので、特に年齢にはこだわっていません。

そうだったのですね!
年代が近いスタッフが多いからか、皆さんコミュニケーションも活発ですし、皆さんリラックスして働かれている感じがしますね。

ありがとうございます!
いまは事業所全体の雰囲気も良いですし、良いスタッフにも恵まれたと思っています。

すぐ隣に社長や所長がいても気軽に声がけをされていますし、スタッフ同士のコミュニケーションに壁がない様子はすごく伝わりました。
所長さん(亀山さん)なんて、社長のことを「パパ」とか呼んでますし(笑)。

それは、本当はいけないんですけどね(苦笑)。
このアットホームな雰囲気は、今後もなるべく保っていきたいなと思っています!

在宅の現場で知った、ご利用者のこと、社会のこと、そして自分自身のこと

ここからは亀山さんご自身のキャリアについてお伺いをさせて下さい。
まず、ご出身はどちらでしたか?

群馬県です。
看護学校から東京に出てきて、准看を取った後に正看護師となりました。

臨床経験としてはどういった働き方をされてきましたか?

病院の救急や外来が長かったですね。
混合病棟でも働いていたのですが、病棟経験はそう長くないです。
あとは、クリニックの立ち上げや、単発バイトでの老人ホームですかね。

私の場合、子どもが多かったことや、家族からのサポートも期待できなかったこともあり「当直のない働き方」が必須条件になっていました。
そうすると、自然と働き方の選択肢も限られてきて…(汗)。


在宅に来る前に働いていたのが糖尿病外来で、そこでの経験は在宅に来てからも役立っていると思います。

在宅でも糖尿病の利用者さんはいますしね。

それもあるのですが、糖尿病って生活習慣の管理ができないことが原因の方も多いじゃないですか?
外来でも「この人また来ちゃったのか…」って方は多かったので。
「言っても聞かない人たちへの関わり方はどうすれば良いんだろう?」ってことは以前からとても悩んでいたので、そういった点は在宅にも通ずるなと。

あまり管理をしようとしすぎてもご利用者から拒否されてしまいますし、
ただ、譲れないラインは守ってもらわないといけない…。

そうなんですよね…。
やはり在宅に移行すると利用者さんの意向は重視されますし、また、ご高齢者の場合はQOLを大事にしたいというお気持ちも強い。
「病気のことはわかっているけど、もう俺たちは長くないんだから好きにさせてくれ!」
ってことはよく言われますね。

どういった調整がその人にとってベターなのかは難しいですよね…。
ただ、ご高齢者の場合は特に、命に関わるような状態になることのリスクを考えると、全部ご本人の希望のまま、といった訳にはいかないですからね。

はい……。
そういう時は主治医の先生にも相談をしたり、場合によっては教育入院にもっていったりすることもあります。

時間も回数も業務範囲も限られた訪問看護での介入の中で、看護師側もある程度は割り切っていく必要がありますね。


こちらのステーションをはじめて3年、(家庭との両立のために)これまでは避けてきた在宅をやってみた感想はいかがでしたか?

一番感じることは、「病院で見ていた患者さんは、その方のごく一部だったんだな」ということですね。
やはり、在宅では、その人だけではなく、その人を囲む周りの環境全てを知ることなりますし、そこを踏まえたうえでアプローチをしていくので。

少し意地悪な質問なのですが、
それだけ利用者さんに深く関わっていくことは、裏を返せば、それだけ医療者側にも心理的な負担がかかる、といったことはないですか?

それはありますね。
ただ、総じてやり甲斐の方が大きいかなと私は感じています。
やはり、その方の「人間らしさ」や「面白み」を知ることができますし、感謝をして頂いていることもダイレクトに感じられるので。

「訪問看護は責任が重いので…」と一歩引いてしまっている人は多いので、是非その言葉を伝えたいです……!
他にはご自身の中で変わられたことはありますか?

あとは、いまの「社会」について少しは分かるようになったのかな?とも思っています。
ご高齢者がどういう生活をされていて、どんなことに悩んでいて、地域でどうやって支えていくことができるのか…、全て病院にいた時は知らなかったことばかりですので。

病院にいた時は視野が狭くなってしまっていたのだな…、
とか、
無意識に「医療者中心」になってしまっていたのだな…、
とどちらも気づけたのは在宅にきたお陰ですね。

あと一歩が踏み込めなかった、忘れられないがん末期のご利用者

亀山さんがこれまで看てこられたご利用者の中で、思い出深いエピソードを教えて頂けますか?

やはり終末期の方ですね。
このステーションを立ち上げて半年くらいの時に、70代・膵臓がん・男性のご利用者をお受けしました。
独居の方なのですが、退院時は、腹水も溜まっているし、下肢の浮腫もすごいし、チューブは入っているし…と、とても1人では動けない状態の方で…。

ご家族はいらっしゃらなかったのですか?

奥様はすでに亡くなられていて、比較的近くにお住まいの息子さんがいました。

では、キーパーソンは息子さん??

そうなのですが、ご利用者本人が、息子さんやそのお嫁さんのお世話になることを嫌がったんですよね。
ご家族だけではなく、ヘルパーさんを入れることも嫌がるような方で、
「人の世話になりたくない」
という意識が強い方でした。
息子さんも、それはよく知っていたので、介入しづらかったと思います。

そういう方いますよね。
「看護師はいいけど、介護士はダメだ」という利用者さんのケースはよく耳にします。

はい……。
ただ、私たちもお宅に入れてはもらえるのですが、
あまり頼られる感じもなく、受け入れは決して良い方では無かったです。
お身体の状態としては介入をしていく必要があったのですが、下手に踏み込んでいって拒否されてしまっても良くないので、手探り状態で徐々に距離感を詰めていこうと考えていました。

そんなことを考えていた矢先、
2週間ほどで救急車搬送になってしまい、そのまま緩和病棟でお亡くなりになりました。

入っていた期間は短かったのですね。

はい、何もできない間に入院になってしまって…。
その入院で初めて息子さんともしっかりとお話ができました。
息子さんは息子さんで、色々なお気持ちを持たれていたことを初めて知ったんですね。

息子さんとしては、お父さんの性格も知っていましたし、ご自身が仕事で忙しかったということもあったのですが、
「もっと関わっていきたい」
という想いを持たれていました。
いまになって振り返ると、もっと私たちが調整をする余地はあったのにな…と思っています。
もっと早くご家族ともコンタクトを取っていくべきでしたし、
もっと情報提供をすべきでしたし、
ご利用者にもご家族にももっと後悔のない最期を過ごして頂くことができたのかな…と。

利用者さんの性格や、あっという間に緊急入院になってしまったことを考えると致し方なかったのかな?とも思いますが…。

ありがとうございます…。
ただ、やはり私自身いっぱいいっぱいでしたし、
未熟だったな、という気持ちは拭えないですね。


「在宅」を選ばれたのはご本人の希望だったのですか?

そうです。病院に対する不信感も強い方だったんですよね。
病院が、ケアマネやうち(訪問看護ステーション)に連携をする時、
「勝手に個人情報を教えるな!」
と言ってすごく怒られていました。

それもあって受け入れが悪かったということも?

私たちのところにはクレームなどはなかったのですが、病院の連携室とケアマネにはすごくご立腹されていましたね…(汗)。
私たちが依頼を受けた時に「すごくナーバスな方で…」といった感じでした。

そんなことがあったのでしたら、尚のことご家族との連携も躊躇しますね…。

はい……(汗)。
ただ、実際にお会いしてお話をすると、全く嫌な感じのする方では無かったんですよ。
真面目にしっかりと自立して生きてこられた方で、「人様に迷惑をかける」とか「人に弱みをみせる」ってことが我慢できない方なのだな、と思いました。
確固たる自分をお持ちの方だな…と。

最期、入院中の病室までお伺いをした時はもう状態はかなり悪くなっていたのですが、目を見開いて私たちを認識して、「わざわざ悪いなぁ」と仰っていました。
私たちに対しては、気遣いながらすごく良くして頂いた方でしたね。

そのことがあってからは、それまで以上に勉強をしましたし、時間をつくって研修への参加もしましたね。
今後、同じようなケースがあった時に後悔をしないように…と。

「ここの訪問看護師さんに来てもらって良かった」と思われるステーション

先程のご利用者とのエピソードじゃないですが、今後もステーションとしては「お看取り」には力を入れていくつもりですか?

そうですね。
がんの方は特になのですが、
在宅でのお看取りって、短い間にどんどん状況が進行していってしまうので、ご本人もご家族も置いてけぼりにならないよう、しっかりと支えていくことができる訪問看護ステーションでありたいなと思っています。

ちなみに、亀山さんごは看護師になる以前は、「子どもが好きで、保育士にも憧れていた」と仰っていましたが、
小児科や重症心身障害児の受け入れなどもやっていきたい、といったお考えはありますか?

ありますね。
ただ、私個人の希望というよりも、今後の社会的ニーズとしては、小児もやっていかざるをえなくなるのかな?と思っています。
小児でも、その他の医療依存度の高いケースでも、訪問看護のニーズは高まっていく一方だと思うので…。

ただ、どれだけニーズがあったとしても中途半端には手を出したくないとも思っています。
経営や売上のために無闇やたらに手をつけるといったことはせず、
ご利用者やご家族から「ここ(の訪問看護ステーション)に来てもらって良かった」と思って頂くことを第一としていくつもりです。

本日はありがとうございました。
取材を終えて

(名前の通り)小田急線「鶴川」駅を出てすぐ目の前に事業所を構える「つるかわ駅前訪問看護ステーション」。
訪問看護を避けてきた妻(管理者)と、訪問看護がやりたくて仕方がなかった旦那(社長)という、ちょっと不思議な組み合わせのご夫婦が運営をする訪問看護ステーションでは、
ご夫婦それぞれが心に描く、ご利用者にとっても働く人にとっても、心地よいステーション像が随所に垣間見ることができます。
また、働かれているスタッフの表情を眺めていても、設立からまだ年数も浅く、0から手探り状態で事業所を作り上げてきたからこその、風通しの良い空気感が流れる職場だと感じられました。
たまたま現在は若い雰囲気のスタッフが多くなっているのですが、様々な年代のスタッフを募集しておりますので、ご興味を持った方は気軽にお問い合わせ下さい!
取材・文章:一和多義隆
事業所情報
事業所名 | つるかわ駅前訪問看護ステーション |
---|---|
運営会社 | 株式会社M&C |
所在地 | 東京都町田市能ヶ谷1丁目7番7号 レクセルプラザ202 |
最寄り駅 | 小田急線「鶴川」駅 徒歩1分 |
在籍人数 | 常勤3名・非常勤4名、PT2名、ST1名 |
従業員の平均年齢 | 30~40代のスタッフが在籍 |
ステーション詳細 | » より詳細なステーション情報を見る |
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本日は、2016年にご夫婦で訪問看護ステーションを立ち上げられた、
『つるかわ駅前訪問看護ステーション』
の管理者であり代表の奥様でもある、亀山さんにインタビューをさせて頂きます。