新築したばかりの家で新婚夫婦が過ごした、最期の時間とは

結婚したばかりの末期ガンを患った40代男性。周囲はできる限り、夫婦の愛の結晶となったお家で過ごすかけがえのない時間を尊重し、自宅での最期を迎えることに。

インタビューご協力者

富澤 佐由理

看護師

めぐみ訪問看護ステーション 管理者

富澤さんがごくごく最近出会ったご夫婦。利用者さんは末期ガンの40代男性の方でした。

このご夫婦、結婚してたった約1年の新婚さん。

さらに自分の思い通りのお家を新築したばかり。

「2人が年を取っても住めるように、車椅子になっても暮らせるように」
ということでバリアフリーの平屋のお家でした。

熱帯魚好きということで、はめ込みの水槽もあるなどご本人も大好きだった自宅。

調子が良い時にはお家のこだわりをよくお話してくれていました。

一度だけでしたが、ご自慢のお風呂でシャワーを浴びたことも。

「最期は自宅で過ごしたい」
というのは、ご本人の意思が強かったそうです。

ご夫婦とも製薬会社に勤めており、看護師たちよりも余程薬効も
理解していたため、奥さんが薬の微調整もしたり、
奥さんの意見をすり合わせたりして経過をみていくことに。

病状が進行していくにつれ痛みや骨折のリスクもあったので、
介護ベッドを勧めたものの、ご本人が
「2人で選んでこだわりのベッドだから」
と、普通のベッドをずっと使っていました。

さらに
「自分が病人に思えてしまう」
という理由で介護ベッドを拒否していました。

40代でまだ若く、新婚さんだったからこそ、
病気である自分を受け入れるのは辛かったのでしょう。

あくまで周囲はご夫婦の意思を尊重していきました。

その後徐々に具合が悪くなっていくご本人と並行するように、
奥さんも痩せていったのだとか。

週3回の訪問でしたが、ご夫婦を一緒に看ていたような状態だったそうです。

 

亡くなったのは、いよいよ介護ベッドを導入した1~2日後のこと。

朝礼中に奥さんから呼び出しがあり、行った時にはすでに亡くなっている状態でした。

ご自宅に到着するやいなや、奥さんが富澤さんに泣き崩れてきたのだとか。

落ち着いてから話を聞くと、
「週末に看護師さんが来ないのが凄く不安だった。
日曜日になると、翌日には看護師さん来てくれるのが安心だった」
と話してくれました。

奥さんも次第に病状が悪化するご主人を目の前に、
孤独と不安でいっぱいだったのです。

亡くなった後に奥さんから聞いた話によると、
ご主人のご病気は結婚する前からわかっていたことでした。

「結婚前、私の母は反対しました。一緒にいる時間の2/3は病気の期間でしたけど、
好きになった気持ちと病気は関係なかった」

お互いに“ちゃん”付けで呼び合う、本当にラブラブなご夫婦でした。

短くても、ご自宅で過ごした時間はかけがえのない思い出になったことでしょう。

 

そしてまだご遺体もある時、ご主人のご両親と弟さんから
「最期の時の話を聞かせてもらいたい」
というご連絡を頂いた富澤さん。

元気な時にスキーをやっていた時の写真を見て頂いたり、
弟さんが週末に来ることを楽しみにしていたお話をさせて頂いたりして、
ご家族とご主人について話をしました。

ご両親はとても安心した表情を見せ、さらに弟さんはたくさんの涙を流した後、
「安心しました」
と一言。

富澤さんはその時、亡くなったご家族のことだけでなく、
その周りのご家族のことも考える必要があると実感したそうです。

家は単なる住まいではなく愛の形であること、病気と向き合う苦悩、
グリーフケアの必要性など、このご夫婦のことでたくさんのことを感じ、
考えることができたと富澤さんは振り返ります。

取材・文章 : 一和多義隆

取材日 : 2017年4月19日