頑固なおじいちゃんが徐々に心を開いてくれるまで

外出、お風呂、ご飯さえ嫌になっていた90代のおじいちゃん。 そんな利用者さんに訪問看護師が取った、繊細なコミュニケーションとは?

インタビューご協力者

三舩 ひろみ

看護師

ソフィア訪問看護ステーション駒場 管理者

三舩さんが病院勤務を経て、昔から憧れていた訪問看護師になって、まだ間もない頃。とある、90代男性の利用者さんがいました。

奥さまはすでに他界されていたものの、3世帯の賑やかなお宅にお住まいでした。

しかし、この男性はとにかくお風呂に入らない方。

それどころか全く外にも出ないし、髭も生やしっぱなし。

ご飯もまともに食べないで暗い部屋でお酒ばかり飲んでいたため、
ご家族の相談によって訪問看護の介入が始まることに。

「あんたは何で家に来たんだ?」

三舩さんは最初、この方に全く受け入れてもらえなかったんだそう。

 

そんな反応でも1ヶ月程訪問を続けていくと徐々に打ち解け、
なんとか足浴ができるようになっていきました。

その後、お風呂場まで連れて行くと諦めて渋々とお風呂も入ってくれるように。

ここまでくるのに2~3ヶ月かかったそうです。

お風呂に入りたがらない理由を、本人はハッキリと仰らず、ご家族も
「元々は綺麗好きでお出かけも好きで、よくネクタイを巻いて外出していたんですけど……」
と、お風呂が遠ざかってしまった背景をご存知ではありませんでした。

ご家族によると、ある時から全くお風呂に入らないし、外出もしなくなったそうです。

三舩さんは理由を問いただすことはせず、こう悟りました。

「もしかしたらお会いしていた友人か知人か、どなたかが亡くなってしまって、
外出したり人に会ったりするのが嫌になっているのかもしれない」

と。

本人が家族にも言いたがらない話を無理やり聞き出すことよりも、
ご家族の希望に即し、また本人が生活しやすいように衛生面を
サポートしてあげることに努めようと決めた三舩さん。

最終的にはお風呂に入って体を綺麗にするだけでなく、
着替えまでしっかりするようになって、
ご家族は大変に喜ばれていました。

 

この方はもうお亡くなりになってしまいましたが、
適度なコミュニケーションを取っていきながら、
段々と心を開いていってくれる姿を感じることができてとても嬉しかったと、
三舩さんは今でもよく覚えているそうです。

ご自宅にお邪魔するからこそ、利用者さんの繊細な心の機微や
ご家族の気持ちを汲み取って看護をしていく。

それは決して簡単なことではないけれども、訪問看護師のその努力は
決して裏切らないのだと教えてくれるエピソードですよね。

取材・文章 : 一和多義隆

取材日 : 2017年4月1日