頑固な老々介護で看護師が考えた「選択のお手伝い」の重要性

頑固な奥様が続ける90代同士の老々介護 奥様の考えを変えたささいな環境の変化に訪問看護師が感じた、自分たちが「ただやるべきこと」とは

インタビューご協力者

工藤 由美子

管理者看護師

てあてリハビリ訪問看護ステーション松戸

頑固な老々介護で看護師が考えた「選択のお手伝い」の重要性 

 

「自己決定支援」、看護師のケアのなかでも難しいもののひとつです。

とりわけ訪問看護では、病院というある程度決められた規則がない、利用者さんの自宅で、ご本人や家族の意思を尊重した支援を提供することになるため、特徴的な分野のひとつかもしれません。

工藤さんが、この自己決定支援の難しさを痛感したエピソードがあります。 

 

 

90代の旦那様を介護する同じく90代の奥様。典型的な老々介護をされていたご夫婦がいらっしゃいました。

訪問看護は週に2回、1時間半ずつ。それ以外の介護はすべて奥様が担っていました。

ろう吸引、オムツ交換。さらには拘縮があるため、やるべき介護の負担はとてつもなく、90代の奥様にとっては非常にハードワークでした。 

 

看護師のケアの進め方として、様々な処置がある場合、その順序は綺麗なものから始め、最後オムツ交換など終わることが衛生上も一般的です。

しかし奥様は、そうした手順を拒否。看護師が医療的に正しいことをやったとしても、ご自身の考えるやり方でやらないと怒ってしまう方でした。

そのほかにもヘルパーさんの受け入れやケアマネージャーさんの勧める用具なども断固として許容せず、「人の手を借りたくない」という考えで介護をされていました。 

 

そんな奥様が変わったきっかけは体調を崩された旦那様の入院。

ご自身も少しずつ介護に疲れていく中で、いろいろなことをやってくれる病院の快適さや楽さに奥様自身が気付いていき、最終的には旦那様の施設入居を決心されました。 

 

誰に何を言われようと決して考えを変えずに「絶対に家で看る。私が介護する」と決めていた奥様。しかし、旦那様や自分の体調、そして環境が変わっていくことで自然に柔軟な選択ができるようになる。

いくら何を言っても聞く耳を持たなかった奥様が考えを変えたことに驚いたものの、そうした選択をご自身でするためのお手伝いを自分たちはただ粛々とやっていけばいいだ、と工藤さんは強く認識したのだそう 

 

最終的に旦那さんはその施設で息を引き取られました

 

病院とは全く異なり、医療者側の提供する情報やケアが、必ずしも在宅で療養する利用者さんにとって最善ではないことがある。

しかし、そんな予測しないことが起きるからこそ在宅は面白いのだと、工藤さんはこのご夫婦のことを振り返ります。 

 

人間が千差万別なのだから、考えや想いも千差万別。当然、看護師のアプローチの仕方やケアの方法も千差万別になっていきます。

利用者さんやご家族が岩のように硬く動かないのであれば、自分たちは水のように形を変えられるくらい柔らかさを持って見守ればいいと感じるきっかけとなったケースでした。

取材・文章 : 一和多義隆

取材日 : 2019年2月25日